定期同額給与とは?業績悪化時の減額対応と注意点を中心に分かりやすく解説

こんにちは。水道橋のひとり税理士の竹岡悟郎です。今回は定期同額給与について、特に業績悪化改定事由について分かりやすくお伝えしたいと思います。

会社の役員報酬は「経費」にできるかどうかが税務上の大きなポイントです。中でも「定期同額給与」として支給することは、法人税の損金算入が可能になるため、当然ながら多くの企業で活用されています。

ただし、役員報酬を途中で増額や減額したいという場合には、一定の理由と手続きが必要です。特に、業績悪化などやむを得ない事情があるときは、「業績悪化改定事由」として認められる可能性がありますが、その判断は慎重を要します。

この記事では、定期同額給与の基本から、業績悪化時の役員給与の減額対応、実務上の留意点まで、わかりやすく解説していきます。

目次

定期同額給与とは?基礎から押さえておこう

税務上、法人が役員に支払う給与を「損金」(経費)として計上するためには、原則として「定期同額給与」「事前確定届出給与」「利益連動給与」のいずれかに該当する必要があります。

中でも定期同額給与とは、以下のような性質の給与を指します。

  • 毎月同時期に定期的に支給されること
  • 支給される金額が毎回同じであること
  • 途中で支給する金額を変更しないこと(ただし例外あり)

例外として、以下のようなケースでは支給額の変更が認められています。

  • 通常改定:毎年所定の時期にあらかじめ予定されている改定(定時株主総会での改定等)
  • 臨時改定事由:役員の職務内容や地位の変更など、やむを得ない事情による改定
  • 業績悪化改定事由:経営状況が著しく悪化したことによる改定

今回焦点をあてる「業績悪化改定事由」については、特に慎重な判断と証拠の整備が求められます。

業績悪化改定事由とは?認められるケースとその判断基準

業績が悪化していれば自由に減額できる?

答えは「いいえ」です。単なる業績の低下や売上未達だけでは、税務上の「業績悪化改定事由」として認められません。

国税庁は次のような条件を満たす場合に限って、役員報酬の減額を認めるとしています。

【業績悪化改定事由の例】

  1. 財務数値が著しく悪化している
  2. 利害関係者(株主・債権者・取引先など)との関係上、減額が避けられない
  3. 会社の信用維持のため経営改善計画に役員報酬の減額が盛り込まれている

これらはいずれも客観的な事情が必要であり、社内の判断だけで「業績が厳しいから減額します」といった対応では認められない点に注意が必要です。

具体例で見る「業績悪化改定事由」の典型パターン

以下は、実際に認められやすいとされている具体的なケースです。

① 株主からの責任追及に対応する場合

業績が悪化し、株主から経営責任の所在が問われる中で、役員自らが報酬を減額することにより信頼回復を図るようなケースです。

※非上場企業や同族会社の場合でも、外部株主や第三者からの責任が想定される場合には該当します。

② 取引銀行との協議において減額が求められる場合

借入金のリスケジュールや追加融資を依頼する際に、銀行側から「経営陣の責任として報酬を減額するべき」と求められることがあります。こうした銀行とのやり取りは書面で記録を残しておくことが重要です。

③ 経営改善計画の一環として減額する場合

取引先との信用維持、経営立て直しの一環として、計画的に役員報酬をカットする場合。中小企業再生支援協議会等との連携に基づく場合は、特に説得力が高まります。

コロナ禍における特例と実務上の取り扱い

2020年以降の新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、多くの企業が収益悪化に直面しました。

この状況を受けて、国税庁は「FAQ(令和2年3月、最終更新令和4年3月)」を通じ、以下のようなケースを業績悪化改定事由として認めるとの見解を示しました。

  • イベントが中止され、人件費の支払い等で資金繰り悪化に直面した法人がやむなく役員報酬を減額した場合
  • 観光客を主たる売上先とする法人が、今後のために経営改善を図る一環で役員給与の減額を行う場合

重要なのは、現時点で赤字でなくても、「今後の財務悪化が不可避である」という客観的な状況と合理的な予測があるかどうかです。

判断に迷ったら?実務上のポイントと留意点

減額の正当性を示すために必要な資料とは?

  • 株主・銀行とのやり取りの記録(議事録など)
  • 経営改善計画書(役員給与減額の目的を明記)
  • 財務資料(売上の推移、資金繰り表、債務超過の有無)
  • 将来見通しに関するシナリオ(得意先倒産・訴訟リスクなど)

また、給与を減額した後にすぐ元の水準に戻すようなケースは、税務調査で「利益調整」とみなされ、否認されるリスクが高まります。

まとめ:形式ではなく「実態」で正しく整えることが大切

定期同額給与の要件を維持したまま、やむを得ず役員報酬を減額するには、「業績悪化改定事由」に該当する客観的な事情が必要です。

判断が難しい場合は、税理士などの専門家に相談し、適正な記録と手続を整えておくことが重要です。とくに同族会社では、役員と株主が近しい関係にあるため、第三者視点での合理性がより強く求められます。

日々の経営が厳しい中でも、安易な給与調整は税務リスクにつながりかねません。しっかりとした根拠と手続きをもって、信頼性のある経営判断を重ねていきましょう。

めい税理士事務所では、一般社団法人やNPO法人など、非営利法人ならではの会計・税務の悩みに、専門的にお応えします。またマネーフォワードを中心に、クラウド会計の導入から日々の運用まで丁寧にサポートいたします。

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