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過大役員給与とは?~役員報酬の適正な決め方を税務と法律の観点からやさしく解説~
こんにちは。水道橋のひとり税理士の竹岡悟郎です。今回は役員給与の適正な決め方について分かりやすくお伝えしたいと思います。
役員報酬をどう設定すればよいか──これは経営者にとって避けては通れないテーマのひとつです。特に中小企業では、社長=オーナーであることも多く、「自分の報酬をいくらにしてもいいのでは?」と思われがちですが、税務の世界ではそうはいきません。もし報酬が「高すぎる」と判断されれば、その一部が経費として認められず、思わぬ税負担につながることも。つい最近でもこのようなニュースもありました 月2.5億円の役員報酬は「高すぎ?」 味噌会社の訴え、最高裁が退ける 原告は”さじ加減課税”に異議 本記事では「過大役員給与」とは何か、また適正な役員報酬の決め方について、やさしく丁寧に解説します。
1. そもそも「過大役員給与」とは?
「過大役員給与」とは、法人が役員に支払う報酬のうち、税法上「不相当に高額」と判断される部分を指します。この「不相当」な金額は、法人の経費(損金)として認められず、課税所得が増えることになります。
法人税法第34条第2項では、「不相当に高額な部分の金額」は損金不算入と明記されており、結果として法人税の増加につながるのです。
では、何をもって「不相当」とされるのか。これには「形式基準」と「実質基準」という2つの評価軸が設けられています。
2. 「形式基準」とは?──株主総会決議が鍵
株主総会の決議が報酬の上限を決める
会社法第361条において、取締役への報酬は「定款または株主総会の決議により定める」とされています。つまり、役員自身で勝手に報酬を決めてしまうことを防ぐため、株主による監視が制度的に設けられているのです。
このルールを受けて、税法でも「株主総会で決めた報酬の上限額を超えて支払われた場合、その超過部分は損金にできない」という「形式基準」が設けられています。
形式基準の適用方法
たとえば、株主総会で「役員報酬総額は年間2億円以内」と決議されていた場合、実際の支給額が2億5000万円だったとすれば、超過分の5000万円は税務上「過大」とされ、損金にできません。
なお、株主総会で総額のみを定め、個々の役員への配分は取締役会に一任するケースも多くありますが、この場合も、取締役会で決定した各人の支給額が基準となり、形式基準でチェックされます。
3. 「実質基準」とは?──内容と比較から判断
実質基準の考え方
形式基準が「決まりを守っているかどうか」だとすれば、実質基準は「その報酬が妥当かどうか」という“中身”の検討です。
以下のような要素を総合的に見て、「その役員に対して、その報酬は妥当といえるか」が判断されます。
- 役員の職務内容
- 法人の収益状況
- 他の従業員の給与水準
- 同業種・同規模法人の役員報酬水準(いわゆる「倍半基準」)
倍半基準と現実の運用
課税庁は、対象法人と売上高が0.5倍~2倍の範囲内で、同業種の法人の役員給与を参考にしています。この「倍半基準」による比較で、平均値や上限を超えていないかを確認するのが実務的な運用です。
とはいえ、納税者が同業他社の詳細な役員報酬データを入手するのは困難なことが多く、事前に民間データ(TKCのY-BAST等)や税務文献等を用いて自社の報酬が適正かを検討しておくことが重要ですが、どうして課税庁が持つデータと比べると弱いことは否めません。
4. 支給限度額が定められていない場合は?
支給限度額が株主総会等で定められていない場合、会社法上は不適切な状態ですが、税務上はただちに形式基準違反とはされず、「実質基準」による判断に委ねられることになります。
しかしながら、少なくとも税務調査で問題とされないよう、株主総会で支給限度額を定めておくことが望ましいです。
5. 代表取締役も例外ではない
かつては「代表取締役の報酬が問題になることは少ない」という見方もありました。なぜなら、代表取締役は法人の経営全般を担っており、職務の対価として高額の報酬がある程度合理的とされてきたからです。
しかし、近年の判例(いわゆる「残波事件」)では、代表者であっても形式基準・実質基準の両面から厳しくチェックされ、過大とされた部分が損金不算入と判断されています。
この事件では、同業他社の平均額ではなく「最高額」と比較し、超える部分を否認された点が注目されました。今後は代表者報酬も例外視されず、明確な基準に基づいた説明が求められる時代に入ったといえるでしょう。
6. 実務上の注意点と対策
適正な役員報酬の決め方のポイント
- 形式面の整備
- 定款または株主総会で支給限度額を明確に定める
- 総額の決議にとどまらず、各人の報酬を取締役会で決定して記録に残す
- 実質面の説明力を高める
- 役員の業務内容を明文化し、法人の収益に対する貢献を可視化
- 他の従業員との給与バランスに注意を払う
- 同業他社との比較資料(民間統計、調査資料など)を収集しておく
- トラブル回避のための事前準備
- 税理士等の専門家と事前に相談
- 大幅な増額は慎重に検討し、事業成績や法人の成長と整合させる
まとめ
過大役員給与の問題は、「どこまでが妥当か」を見極める複雑な判断が必要です。形式的な決まりを守っているか、そして実態としての妥当性があるかの両面からチェックされます。特に近年は、代表取締役の報酬ですら厳しく問われるケースも出てきており、「決めたから大丈夫」という時代ではありません。
適正な役員報酬の設定には、法的な根拠と実務的な裏付けの両方が求められます。将来的な税務リスクを回避するためにも、ルールに則り、きちんとした手続きを経て報酬を決めていくことが、安心と信頼につながる第一歩となるでしょう。
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