「使途秘匿金」とは?40%追加課税の仕組みと実務での注意点

こんにちは。東京都千代田区で開業しています、税理士の竹岡悟郎です。

今回は「使途秘匿金」についてのお話になります。

目次

「使途秘匿金」ってどんなお金?やさしく概要から

「使途秘匿金(しとひとくきん)」という言葉、日常の経理業務ではあまり登場しないかもしれませんが、税務調査の現場ではかなり“重たい”テーマの一つです。

反対運動を抑えるための謝礼、仕事を優先的に回してもらうためのリベート、マスコミへの情報操作の謝礼など。どれも、なんまり表に出したくないお金のイメージがあると思います。

こうしたお金について、

  • 誰に支払ったのか
  • どこにいる人なのか(住所・所在地)
  • 何のために支払ったのか

といった情報を、相当の理由もないのに帳簿書類に書いていないものが、「使途秘匿金」とされます。

使途秘匿金となってしまうと、

  • その支出は 損金にできない(損金不算入)
  • さらに 支出額の40%が法人税として追加課税
  • 地方法人税・地方税も増える
  • 消費税の 仕入税額控除も受けられない

という、かなり厳しい扱いに。

しかも、赤字申告の法人であっても、使途秘匿金があれば40%分の法人税は納めなければならないという点が最大のインパクトです。「今期は大赤字だから法人税はゼロだろう」と思っていても、使途秘匿金があるだけで税金が発生してしまいます。

どんな支出が「使途秘匿金」になるのか

(1)典型例:相手先を隠した謝礼・リベートなど

使途秘匿金は、次のような要件を満たすときに問題になります。

  • 法人が金銭や物品を支出している
  • 相手方の氏名・住所、支出の事由を帳簿書類に記載していない
  • その「記載しないこと」について 相当の理由がない
  • 単なる通常取引の対価として支払われたものではない

たとえば、次のようなイメージです。

  • 建設中のマンション反対運動を抑えるため、地元有力者への謝礼を現金で支出
    → 相手に迷惑がかかるからといって、請求書も領収書もなく、帳簿にも相手先を記載しない
  • 元請会社の担当者個人に、現金リベートを渡して仕事を優先的に回してもらう
    → こちらも「相手に迷惑がかかるから」として、氏名・住所などを記載しない

こういった支出は、「誰に・何のために」支払ったかをあえて隠していると見なされやすく、使途秘匿金課税の対象になります。

「赤字だし、申告書では自分で損金否認もしているから、追加課税まではされないのでは?」と思いたくなりますが、残念ながらそういかず、赤字であっても、支出額の40%の法人税が課税される点は特に注意が必要です。


(2)「相当の理由」があるケース・ないケース

帳簿に相手先の名前を書いていないからといって、すべてが使途秘匿金になるわけではありません。税法上、「相当の理由」がある場合には、使途秘匿金から除かれます。

相当の理由があるとされる主なケース

  • カレンダー・手帳などの広告宣伝用物品を不特定多数に配る場合
    → 一人ひとりの氏名を帳簿に書かないのが通常であり、相手方を列挙しないことに合理性があります。
  • チップなどの小口の謝礼で、相手の氏名まで記載しないのが一般的な場合

一方で、次のような理由は「相当の理由」とは認められません。

  • 相手に迷惑がかかるから
  • 今後の取引が止まるおそれがあるから
  • 相手が犯罪に問われるかもしれないから

つまり、「バレたら困るから名前を書かない」というのは、まさに制度が想定しているNGパターンであり、使途秘匿金課税の対象となります。


(3)サービス提供は含まれない:ゴルフ・旅行などの接待

少しホッとできるポイントとして、役務やサービスの提供に対する支出は、原則として使途秘匿金には当たらないとされています。

たとえば、

  • 取引先の担当者をゴルフに招待する
  • 旅行に同行してもらい、そこで接待する

といった場合、その費用はたしかに交際費等として問題になる可能性はありますが、サービス提供による消費的な支出であり、相手方に資産として蓄えられるものではないため、使途秘匿金課税の対象からは外されています。

ただし、

  • 「ゴルフ代や旅行代だから何でもOK」ということではなく
  • 交際費等としての損金算入限度や、会社の規程との整合性

など、別の観点からのチェックは必要です。あくまで「使途秘匿金の40%追加課税まではかからない」ということです。

帳簿書類への記載タイミングと税務調査での怖さ

(1)いつまでに帳簿に書いておけばよいか

「税務調査のときに質問されたら、そのときに名前を出せばいいのでは?」と考えられがちですが、使途秘匿金課税の判定は、支出した事業年度終了の日の状況で行われます。

具体的には、

  • 原則:その事業年度の期末時点で、帳簿書類に相手先の氏名等が記載されているか
  • 例外:確定申告書の提出期限までに記載された場合は、「期末に記載があった」とみなされる

したがって、

  • 支出した年度の申告期限までに帳簿上、相手先の氏名・住所・支出事由を明らかにしておくこと
  • 「とりあえず空欄のままにしておいて、調査のときにだけ税務署に教える」という対応は認められない

という点がポイントです。


(2)「使途秘匿金として申告しておけば、相手先は守られる」は誤解

中には、あえて使途秘匿金として申告し、

  • 自社側で40%の追加課税を受ける代わりに
  • 相手先の課税は行われないようにしたい

と考えるケースもあります。しかし、使途秘匿金課税は、相手先に代わって法人が税金を負担する“代替課税”ではありません。

税務調査において、たとえ申告の段階で使途秘匿金として処理していたとしても、

  • 税務職員の質問検査権は及びますし
  • 相手先の解明が行われることは十分あり得ます

そして、調査の結果、実際の受取人が判明すれば、その相手先にも当然課税が行われます。

つまり、「40%払っているから、それで終わり」という制度ではない、ということです。


(3)重加算税・延滞税が上乗せされるリスク

使途秘匿金が税務調査で発見された場合、

  • その支出額の全額が損金不算入
  • さらに 40%の追加課税
  • そのうえで 重加算税・延滞税 が課されることも多い

という、かなり厳しい結果になりがちです。

ケースによっては、支出額の8割近い追加納付に至ることもあり、最終的な負担額が元の支出額を上回ることも珍しくありません。

帳簿書類の破棄・改ざんや、明らかに不自然な勘定科目での計上などがあると、「仮装・隠ぺい」と判断されやすくなります。使途秘匿金が疑われそうな支出については、そもそも行わないのがベストですが、やむを得ない支出が想定される業種では、事前に税理士と相談しながら慎重に判断することが重要です。

費途不明金との違いと、税務調整・消費税への影響

(1)費途不明金と使途秘匿金の違い

似ているようで違う概念として、「費途不明金」があります。

費途不明金とは

  • 交際費・機密費・接待費などの名目で支出されたお金のうち
  • 具体的に何に使ったのか(費途)が明らかでないもの

であり、これは損金に算入できません。

一方で、

使途秘匿金とは

  • 金銭や物品の支出で
  • 相手先や支出事由を帳簿書類に記載していないもののうち
  • 「相当の理由」がないもの
  • ※単なる通常取引の対価を除く

を指し、こちらも損金不算入ですが、さらに40%の追加課税がかかる点が決定的な違いです。

イメージとしては、

  • 支出の内容や相手先がよく分からないのが 費途不明金
  • 相手先を「わざと隠している」と評価されるのが 使途秘匿金

という区分になります。


(2)法人税申告での調整:別表四での加算

使途秘匿金となる支出があった場合、法人税の申告では、

  • その支出額を 損金不算入(別表四で加算)
  • さらに、支出額の40%を 「税額加算」として別途計算

する必要があります。

赤字法人でも、この40%部分は容赦なく課税されますので、「赤字だからとりあえず処理を曖昧にしておこう」は非常にリスクが高い対応になります。


(3)消費税の仕入税額控除ができない

使途秘匿金に関連する支出については、

  • 相手先や内容を記載した帳簿
  • 請求書・領収書などの保存

がないため、消費税法上も仕入税額控除の要件を満たさないことになります。

交際費や機密費のうち費途不明の部分についても仕入税額控除は認められませんので、

  • 法人税:損金不算入+40%追加課税
  • 消費税:仕入税額控除不可

と、二重・三重に不利な扱いになります。


(4)役員の「認定賞与」とされるリスク

使途秘匿金は、その中身が明らかでない分、

  • 実は役員個人が使ってしまったのではないか?

と疑われやすい部分でもあります。

税務署から、

  • これは実質的に役員への賞与(認定賞与)だ

と判断されると、

  • 法人側では損金不算入
  • 役員個人には給与所得として課税
  • 源泉所得税の納付漏れがあるとして追徴

という、さらに厳しい結果につながるおそれがあります。

これを避けるためには、

  • 役員が独断で支出を決めないこと
  • 取締役会議事録・稟議書など、内部資料をきちんと残すこと

など、社内統制の面でも準備をしておく必要があります。

実務で気をつけたいポイントとまとめ

ここまで見てきたとおり、使途秘匿金は、

  • 損金不算入
  • 40%の追加課税
  • 消費税の仕入税額控除不可
  • 場合によっては重加算税・延滞税
  • 認定賞与として役員側にも課税

という、非常に負担の大きい制度です。実務上は、次のような点を意識しておくとよいでしょう。

  1. 原則として、相手先を隠さないといけないような支出は行わないこと。
    ビジネス慣行上、微妙な場面はあるかもしれませんが、税務上のリスクは相当大きいことを認識しておく必要があります。
  2. やむを得ず謝礼等を支出する場合でも、相手先・住所・支出事由は帳簿に残すこと。
    「相手に迷惑がかかるから」という理由では、相当の理由とは認められません。
  3. ダミーのコンサルタントや外注を経由して支出してもダメ。
    帳簿上はBさんに支払った形にしても、その先に真の受取人がいると認められる場合は、実質で判断されます。
  4. 仮払金・前払金・貸付金などの科目で処理しても安心ではない。
    費用処理していなくても、「支出した時点」で使途秘匿金課税の対象となります。
  5. 税務調査で相手先の解明が行われる可能性は高い。
    使途秘匿金として申告していても、税務署は相手方を調査し、必要に応じて相手先にも課税を行います。
  6. 少しでも疑問がある支出は、事前に税理士に相談する。
    事後対応では取り返しのつかないケースが多いため、契約段階・支出前の段階で相談しておくことが、最大の防御になります。

使途秘匿金の制度は、企業にとって決して身近であってほしくないテーマですが、一度問題になるとダメージが非常に大きい分野です。

「ちょっと帳簿の書き方を工夫すればバレないのでは?」という発想は、税務調査の現場では通用しません。むしろ、そのような対応こそが重加算税の対象になりやすいといえます。

日々の経理・税務の現場では、

  • 透明性の高い支出を心がけること
  • 記録をきちんと残すこと
  • グレーな支出は行わない・事前に相談すること

この3つを意識していただくのが、最も現実的で安全な対策です。

もし、自社に「これって大丈夫かな?」と気になる支出がある場合は、早めに専門家に相談し、リスクの洗い出しと対応方針の整理をしておくと安心です。

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