親子会社間の取引を整える——経営指導料・ロイヤルティ・賃料の実務ポイント

こんにちは。東京都千代田区で開業しています税理士の竹岡悟郎です。

同じグループの会社同士の取引は、どうしても“身内”感覚が出やすいものです。
しかしながらが税務の世界では、第三者と取引したのと同じくらいの説明力(実態・金額・書類)が求められます。とくに「経営指導料」「ロイヤルティ(商標・特許の使用料)」「共通システム利用料」「不動産賃料」などは、金額の決め方しだいで寄附金認定や受贈益課税といった問題が生じてきます。

今回は、親子会社間の代表的な取引を整理し、税務調査で問われやすい観点と、今日からできる整備ステップをまとめました。

目次

なぜ“親子間”は特別視されるのか

第三者間の取引は、価格が合わなければそもそも成立しません。なので結果的に時価に近づきます。

一方で親子会社間は、グループ内で利益移転がやりやすく、恣意性が入り込みやすい環境です。結果として、税務では「本当に役務が提供されたのか」「その対価は独立当事者でも納得できる水準か」「期末までに債務が確定しているか」という視点で確認されます。

そこで問われるのが次の三点です。

  • 実態:役務の提供や権利の使用が現実に行われたのか。
  • 金額:第三者でも納得できる算定根拠か。
  • 書類:契約・議事録・明細など説明資料が整っているか。

    この三点がそろって初めて、子会社側の費用は損金として認められやすくなります。

経営指導料・ロイヤルティ・システム利用料の“納得感”をどう作るか

経営指導料に対する考え方

親会社からの経営指導は、単なるグループ監督ではなく、会議での助言、重大意思決定の支援、内部統制や管理水準の向上、人材・会計・情報システムといった横断的ノウハウの供与など、子会社に具体的な便益がある場合に意味を持ちます。

子会社側では、取締役会や経営会議の議事録、助言メモ、月次レポート、訪問記録といった形で“実態の足跡”を残すことがポイントになります。

金額については、親会社が投入した人件費や管理コストに適正な利幅をのせる「コスト+マークアップ」の考え方をベースに据えると、第三者目線の説明がしやすくなります。タイムシートや稼働見積り、会議体の頻度と参加者の工数といった測れるものを用意しておくと、説得力が一段上がります。

ロイヤリティに関する考え方

商標権や特許などのロイヤルティも同様に、何の権利を、どの範囲で、どれだけ使っているのかが出発点です。

ブランド維持活動や研究開発のコスト、子会社の売上や粗利への寄与の度合いなどを踏まえ、売上連動の料率方式やコストベース方式を選びます。独立当事者間の相場情報を補助資料として添えると、社内の合意形成も税務調査の説明もスムーズです。

共通システムに関する考え方

共通システムの利用料や管理部門の集約については、ユーザー数やID数、トランザクション件数、売上・人員など、配賦の軸をあらかじめ決めて継続適用することが肝心です。

導入費・保守費の内訳、SaaS契約、SLA、利用ログを保管しておくと、費用配賦の見える化につながります。大切なのは、実態→原価→配賦→対価という流れを残すことです。

不動産賃料は“相場+コスト”で落ち着かせる

親会社が保有する不動産を子会社に貸し、子会社が本社や店舗・工場として使う場面は珍しくありません。

賃料の妥当性は、近隣の類似物件の賃料相場で時価を確かめることに加え、親会社側の取得原価、固定資産税や保険料、修繕費、管理費などの実際コストに適正な利回りをのせて検証するのが実務的です。

募集図面や市況レポート、固定資産台帳、修繕の見積書など、資料を残す習慣が、のちのちの安心感を生みます。

寄附金・受贈益の線引きと完全支配関係の扱い

親子会社間で対価が時価に対して過大・過少であれば、差額が寄附金や受贈益として扱われる可能性があります。

完全支配関係にある内国法人間での寄附・受贈は、支払側で寄附金が全額損金不算入、受取側で受贈益が全額益金不算入という損得相殺というのがありますが、だからといって自由に価格を動かして良いわけではありません。少数株主や債権者への説明、移転価格的な公正さ、そして何よりも子会社の損益管理の健全性の観点から、対価は常に第三者でも納得する水準で決め、根拠を残しておくことが重要です。

業務委託費は最初に見られる

グループ内の業務委託は、実態が薄いと利益移転の温床と見なされやすい項目です。

契約書の条項が抽象的だと、調査の現場で一気に不利になります。どの部署が、何を、どの頻度で、どれだけの工数で行い、どのような成果物が生まれたのか。これを日々のレポートや作業ログ、成果のファイルとして淡々と残していくことが、最強の防御になります。

価格面では、原価に利潤をのせた説明と、競合他社の水準感を示す材料があると安心です。消費税では、とくに新設免税法人を絡めた「仕入控除だけ取る」スキームが厳しく見られます。今はインボイス制度が始まったことで、こういったスキームも減ってきてはいるのでしょうが。

実態のない外注化は、重加算税まで射程に入りますので、子会社側の管理責任として避けましょう。

出向負担金を「経営指導料」名義で払うときの注意

出向先から出向元に支払う金額のうち、出向者の給与に相当する部分は、名目が経営指導料であっても“給与”として取り扱うのが原則です。源泉徴収義務は実際に給与を支給する出向元にありますし、出向先の消費税では課税仕入れにならないため仕入税額控除はできません。

給与相当額を超える部分については、別の役務提供に対する対価なのか、単なる贈与なのか、名目ではなく実質で丁寧に切り分ける必要があります。

持株会社の経営管理と少数株主の視点

純粋持株会社がグループを統括する場合、経営戦略や資本政策、人事方針、承認・報告事項、内部監査、経営管理料の考え方を契約で明文化しておくと、グループのルールブックとして機能します。

完全子会社でない場合には、子会社の取締役に善管注意義務・忠実義務違反が問われないよう、子会社にとって必要・有益な役務であること、対価の決定方法が合理的であることを、当事者の関係や実際の便益、第三者水準との乖離の有無まで含めて記録しておくと安心です。

裁判例でも、名目ではなく実質に即した総合評価が重視されることが示されています。結局のところ、「少数株主にも胸を張って説明できる価格か」が最大のチェックポイントです。

実務を前に進めるための運用のコツ

いちばん効果的なのは、年に一度の“棚卸し”を仕組みにすることです。

まず、受けている役務や使用している権利・システムを洗い出し、稼働時間やユーザー数などの尺度に置き換えます。
次に、親会社側の原価を見える化し、配賦の軸を合意して継続適用します。そのうえで、経営指導やシステム等は「原価+マークアップ」、権利使用は「売上連動」や「コストベース+利潤」など方式を選び、相場情報で補強します。
契約書、議事録、配賦表、相場資料、請求明細をワンセットにして保管し、売上や人員、ID数が一定幅を超えて変化したら自動的に改定検討に入る――こうした“運用の型”ができると、毎期の説明がぐっと楽になります。

終わりに

親子会社間の取引ほど、実態・金額・書類の三位一体がものを言います。

子会社目線で必要な役務だけを選び、第三者でも納得する算定で対価を決め、しっかり証拠を残す。たったこれだけの積み重ねが、寄附金や受贈益のリスクを遠ざけ、少数株主にも税務当局にも信頼されるグループ運営につながります。

まずは今期の「経営指導料」「ロイヤルティ」「システム利用料」「賃料」について、契約・算定根拠・実績資料の三点セットを一つにまとめてみてください。

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