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居住用賃貸物件を取得した場合の消費税―令和2年改正の核心とやりがちなミスを回避するために
こんにちは。東京都千代田区で開業しています税理士の竹岡悟郎です。
今回も嫌な消費税の論点です。
前回(column0038)では「高額特定資産」について、3年縛りや取戻しの考え方のお話でしたが、続く今回は、実務でうっかりしやすい居住用賃貸建物(賃貸マンション・アパート等)を取得したときの消費税のお話です。
「建物を買えば一括比例で還付できる?」――今までの常識から、令和2年改正でその取扱いが大きく変わってしまいました。今は、最初の仕訳・区分とタイミングの判断がとても重要になりました。
今回は、改正の趣旨から判定ポイント、転用・譲渡の調整、3年縛り、会計処理など、現場で役立てるよう、丁寧に解説できたらと思います。

なぜ「居住用賃貸」は仕入税額控除NGなのか
大前提として、住宅家賃は非課税のため、本来その取得費は仕入税額控除の対象外です。ところが過去には、金地金の売買などを使って「課税売上割合95%以上」をつくり、建物取得期に還付を受けたうえで、第3年度の取戻し課税も回避しようとするスキームが横行しました。
そのため、これに歯止めをかけるべく、令和2年10月1日以後は、高額特定資産に該当する居住用賃貸建物について取得時点の仕入税額控除を認めないという明確なルールが導入されました。
どこまでが「居住用賃貸建物」か:線引きを間違えない
1) 定義
居住用賃貸建物とは、「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」以外のうち、高額特定資産または調整対象自己建設高額資産に該当するものをいいます。
つまりは、“住宅に使う可能性が少しでもある”建物は、原則この範囲に入ると考えるのが安全です。
2) 住宅に用いないことが“明らか”な建物の代表例
- 建物の全てが店舗・工場・事務所等の事業用施設
- ホテル・旅館(旅館業法の施設)
- 棚卸資産として取得し、保有中も住宅に使わないことが明らかなもの
3) 店舗併用マンションの実務
店舗部分と居住部分を合理的に区分できる場合、店舗部分のみ仕入控除OK/居住部分はNGという扱いです。
「合理的区分」は、使用面積比や面積×原価比など実態に即した基準で行い、取得の早い段階で設計・見積の内訳を整理し、店舗部分の原価が独立して追えるような状態にしておくと、後の争点を大幅に減らせるかと。
注意
区分の結果、居住部分の税抜価額が1,000万円未満になっても、全体が高額特定資産に該当すれば居住部分は控除NGです。「居住部分が1,000万円未満なら助かる」は誤りです。
「取得時はNG、あとで取り戻す」―転用・譲渡時の調整を使いこなす
1) 課税賃貸用に転用したとき(第3年度にまとめて加算)
- 条件:
- 取得時に居住用賃貸として控除NGの扱いを受けている
- 調整期間(取得日~第3年度期末)内に、全部または一部を課税賃貸に供す
- 第3年度の期末にその建物を保有している
- 計算イメージ:
「当初の建物消費税額 × 課税賃貸割合」を第3年度の仕入税額に加算
課税賃貸割合は、調整期間中の課税賃貸家賃(税抜)÷総家賃(税抜)。
家賃返還があれば、分子・分母とも返還を控除した残額で計算します。
2) 譲渡したとき(譲渡事業年度で加算)
- 調整期間中に譲渡した場合、
「当初の建物消費税額 × 課税譲渡等割合」を譲渡年の仕入税額に加算。 - 課税譲渡等割合は、(課税賃貸家賃+譲渡対価)÷(総家賃+譲渡対価)(いずれも税抜)。
実務のカギ
物件ごとに、調整期間中の課税家賃・非課税家賃・返還・譲渡額を個別管理が必要になってきます。ここが曖昧だと、割合算定が崩れて取り戻しに失敗しちゃうことも。
年縛りとの関係:**「控除NGでも3年縛りは来る」**に注意
よくある誤解が「取得時に控除していない=3年縛りは関係ない」というもので、
居住用賃貸建物でも“高額特定資産を取得した事実”があれば3年縛りは適用されます。
なので免税点・簡易課税の適用は、取得期から3年を経過する日の属する課税期間まで使えない前提で運用する必要があります。途中で簡易課税へ切替るための届出を出しても、みなし不提出みたいな形で原則課税のままになるため、後々修正申告が必要になるケースも出てしまいます。
ケースで学ぶ“やりがちミス”と正しい対処
ケースA:取得期に一括比例で還付申告してしまった
- 何がミス?
令和2年改正後は、居住用賃貸の取得費は控除NGなので、一括比例で取り込んだら過大控除になってしまいます。 - 対処
修正申告に・・。なお、後日の転用・譲渡があるなら、第3年度または譲渡年に調整で取り戻す可能性は残ります。
ケースB:販売目的の現住マンションを商品で取得し控除した
- 何がミス?
現に賃貸中=住宅の貸付けに供されているため、居住用賃貸建物に該当してしまい、取得時控除NGです。 - 対処
これも修正申告。ただし調整期間中に売却すれば、課税譲渡等割合により一定額を加算控除可能です。家賃と譲渡金額の個別把握が。
ケースC:店舗併用を区分せず“全部控除NG”にしていた
- 何がミス?
店舗部分は合理的区分ができれば控除OK。 - 対処
設計・原価・面積の合理的区分資料を整えて店舗分を切り出して、将来の転用・譲渡の調整も見据えて、物件別台帳のような形で家賃を継続管理できれば。
ケースD:控除NGだから3年縛りはないと判断し、翌期に簡易課税へ
- 何がミス?
高額特定資産の取得事実があるため3年縛りは適用になります。 - 対処
簡易課税の届出は無効扱いとなり、原則課税での修正申告が必要。
会計処理の実務:最初の税区分が重要
- 建物・建物附属設備の税区分は、会計ソフトのデフォルトが「課税」になっていることが多く、課税区分をしっかりチェッ切ればよいです。
- 居住用賃貸は「非課税売上対応」など控除対象外になるようにコード設定出来ればよいですね。
- 店舗併用は、居住部分=控除NG/店舗部分=控除OKが一目で分かる明細を仕訳・原価台帳の両面で残しましょう。
- 物件別(資産別)管理台帳に、取得額・消費税額・調整期間・課税/非課税家賃の推移・返還履歴・譲渡価額を年単位で記録することにより、調整計算の証拠能力が上がります。
どれも大変ですが、しっかり管理することが何より重要ですね。
控除対象外消費税の扱い:3つの選択肢を比較
居住用賃貸で控除NGとなった控除対象外消費税は、従来どおり次の選択が可能です。
- 発生期に全額損金(※課税売上割合80%以上、棚卸資産・特定課税仕入れ、20万円未満などの条件あり)
- 繰延消費税額等として資産計上→5年以上で償却(初年度はその1/2の償却)
- 取得価額に算入して減価償却で配分
キャッシュ・利益・将来の転用・譲渡と調整の見込みを総合的に見て、最適案を選択しましょう。
ここを押さえれば安全運転:チェックリスト(保存版)
- 取得前から、用途(居住/店舗/ホテル/販売)の客観資料を確保
- 店舗併用は合理的区分(面積・原価)を設計・見積段階で確立
- 会計ソフトの税区分を初期設定のままにしない(居住部分は控除NG)
- 物件別台帳で、調整期間の課税/非課税家賃・返還・譲渡対価を個別管理
- 転用・譲渡のスケジュールは、調整期間内かどうかをまず確認
- 3年縛りの影響を前提に、免税点・簡易課税の選択を計画
- 控除対象外消費税の損金化方法(即時/繰延/取得価額算入)を資金繰り・決算戦略と整合
- 将来の税務調査を見据え、区分根拠・計算プロセスの証拠性を強化
そんなにやるのかっていう感じですね・・・。
ひとつの判断で、納税額が大きく変わってしまう消費税・・・。マジでもっと簡潔にできないかな・・
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