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収益事業判定における「技芸教授業」をやさしく解説——収益事業になる?ならない?境界線と実務ポイント
こんにちは。東京都千代田区の税理士の竹岡悟郎です。
はじめて講座や教室を始めるとき、「これは収益事業に当たるのか?」と迷う場面は少なくありません。前回は請負業について解説しましたが、「技芸教授業(ぎげいきょうじゅぎょう)」についても、対象が広く、非課税扱いになるケースとの線引きが複雑でめんどくさいです。

今回は、収益事業判定における技芸教授業について、基本から「除外されるケース」、よくあるグレーゾーンまで、整理していきます。
1. そもそも技芸教授業って何?(収益事業の位置づけ)
収益事業は、継続して事業場を設けて行う34種の特定事業のことで、法人税の課税対象になります。その一つが“技芸教授業”。内容は大きく次の3つです。収益事業についてはこちらから

- 技芸の教授
列挙された特定の22分野の教授が該当します。
洋裁、和裁、着物着付け、編物、手芸、料理、理容、美容、茶道、生花、演劇、演芸、舞踊、舞踏、音楽、絵画、書道、写真、工芸、デザイン(レタリングを含む。)、自動車操縦若しくは小型船舶(船舶職員及び小型船舶操縦者法第2条第4項(定義)に規定する小型船舶をいう。)の操縦の教授をいい、対面でも通信でもOKです。 - 学力の教授や公開模擬試験
入試対策や学校の補習のための学力教授、入試を模した公開模試も対象です(通信教育含む)。 - 資格・段位等の付与
自ら教授をしなくても、上記の特定分野に関する免許・段位・級・師範・名取り等の資格・称号を付与する行為のみでも技芸教授業に含まれます。
一方で、認定法上の公益目的事業に該当するものは収益事業から外れる取扱いがあり、さらに後述の「除外」要件を満たせば非課税となります。ここが最初の分岐点です。
2. 収益事業から“除外される”技芸教授業(非課税扱い)
次の類型は、条件を満たすと収益事業に該当しません(=法人税は課されません)。
- 学校等が行う技芸・学力の教授(一定のもの)
学校・専修学校・各種学校で行う教授のうち、例えば次のような基準を満たすもの。
例)①修業期間1年以上、②年間授業時間680時間以上(専修学校は800時間以上)、③施設・教員が十分、④年2回を超えない入学時期と明確な修了、⑤学期ごとの成績評価と記録、⑥修了証書の授与——など。
※実質的に“学校教育としての体系性・継続性・評価性”が整っているかがポイントです。 - 社会教育法に基づく文科大臣認定の通信教育
所定の認定を受けた通信講座は非課税の対象になり得ます。 - 理容師・美容師の養成施設での教授(指定・通信含む)
都道府県知事の指定を受けた施設での養成や、その通信課程の添削指導が該当。 - 国家試験の実施等に関する法定の教授
法令に基づき指定された法人が、法令に沿って行う資格付与関連の教授で、対価が実費相当/費用内である等の要件を満たす場合。
つまり、「教育制度としての枠組み」「公的な認定・指定」「対価の妥当性」などがそろうと、同じ“教える行為”でも非課税の側に回る可能性が高まります。
3. 付随行為と“他の事業”の扱い(教材販売・バザー・実習サロン)
技芸教授業に付随して行う行為は、原則として教授業の一部として課税対象に含まれます。
- 教材販売
指定教科書・参考書など“授業で用いる教材”の販売は、学校法人等が自校の学生に対して行う範囲なら物品販売業に該当しない扱いがあります。ただし、技芸教授業として一般向けに教室を営む場合の教材販売は付随行為として課税対象に含まれます。 - バザー
学校法人等が年1~2回のバザーを行うだけなら収益事業に当たらない扱いが一般的ですが、技芸教授業を営む主体が開催するバザーは付随行為として課税に含まれる点に注意。 - 理容学校の実習サロン
学校側の教授が非課税であっても、一般客に理容サービスを提供する実習サロンは、教授の付随ではなく独立した「理容業」として課税対象になります。ここは“提供相手が不特定多数か”“授業外の市販サービスか”が分かれ目です。
. よくあるグレーゾーンを具体例で
現場で迷いやすい論点を、イメージしやすい例で確認しましょう。
- パソコン教室
Word/Excel操作の講座、会計ソフトの使い方講座等は、列挙された22の技芸には当たらず、通常は収益事業に該当しないと考えられます。
ただし、例えばパソコンを使用したデザイン講座は、道具としてPCを使っていてもデザインの教授に該当し、技芸教授業=課税対象というような判断になります。 - スポーツ指導(自治体受託)
サッカー等スポーツの指導は、列挙22分野の技芸教授に該当しません。
また、自治体から受託される場合は、「請負業では?」と考えがちですが、他の特掲事業で非該当と判定されたものを、あらためて請負業に当て直すことはしないのが整理です。結果としていずれの収益事業にも該当しない結論となります。 - 書道教室とそろばん教室
書道教室については、書道は、列挙された22の技芸に該当するため、技芸教授業として収益事業に該当しますが、そろばん教室は、列挙22の技芸に該当しないため、収益事業に該当しないと考えます。ややこしい。 - 子ども将棋大会
将棋大会は参加者が競技するイベントで、観覧させる見せ物ではないため興行業とは言いにくいケースが多いです。プロの指導将棋が含まれるとしても、将棋自体は列挙22分野にないため、技芸教授業にも通常は該当しません。
5. 実務チェックリスト
判断と運営のブレを減らすために、次の観点を書面でそろえておくのがおすすめです。
- ① 対象が“列挙22分野”か
似て非なる分野(例:英会話、そろばん等)は技芸教授業の対象外。講座名ではなく教授の実質で判断。 - ② 免許・段位等の付与の有無
教授をしていなくても、資格や段位の付与だけで対象となる場合あり。実施要領や認定基準、発行様式を保管。 - ③ 学校等の“除外要件”の充足
年間時間数・修業年限・評価・施設要件・認定書類など、非課税の根拠資料を体系的に保存。 - ④ 付随行為の整理
教材販売・バザー・広告など、本体との関係性を文書化。実習サロンのように他事業へ独立するケースにも注意。 - ⑤ 契約・募集の態様
公開模試や一般募集の有無、参加条件、対価設定の根拠(実費相当か)を契約書・要綱・案内で明確に。 - ⑥ 会計の区分と税務申告
収益事業とそれ以外を区分経理し、収益事業に該当する部分のみを課税所得計算に反映。消費税は課税・非課税・不課税の切り分けも要検討。 - ⑦ 事前相談
新設講座や制度改編(学校部活動の地域移行など)は、開始前に専門家へ相談。企画段階から書きぶりを整えると後の修正コストが下がります。
まとめ
技芸教授業は、「どの分野を、どの枠組みで、どんな相手に、どんな対価設定で」行うかで、課税・非課税の結論が変わります。列挙22分野かどうか、学校等の除外要件の充足、付随行為や他事業との線引き——この3本柱を丁寧に押さえれば、実務の迷いはぐっと減ります。公益法人等が地域の学びを支える活動ほど、設計と記録を整えることが“最良のリスクヘッジ”。迷ったら、早めに方針を一緒に固めていきましょう。
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