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収益事業における請負業とは—公益法人等の収益事業判定を迷わないために
こんにちは。東京都千代田区の税理士の竹岡悟郎です。
はじめて補助事業や受託研究、指定管理を任されたとき、「これは収益事業(法人税の課税対象)になるの?」と不安になることは少なくありません。とくに34種のうち「請負業」は射程が広く、事務処理の受託まで含むため、判断を誤ると課税・非課税の結論が大きく変わります。今回は、公益法人等が押さえておきたい請負業の基本、除外規定、他の特掲事業との関係、実務で役立つ判定手順までを整理します。
1. 「請負業」とは—条文と実務の橋渡し
請負とは、ある仕事の完成を約し、その結果に対して報酬を受ける契約をいいます(民法632条)。法人税法施行令5条1項10号は、この典型例である、建設工事などに加え、「事務処理の委託を受ける業」を含むと定義しています。具体的には、調査・研究、情報の収集・提供、手形交換・為替業務、検査・検定といった受託業務が該当します(法基通15-1-27)。
一方で、単に「知っている事実を証明するだけ」の行為(例:原産地証明の交付など)は請負業に含まれません。境界を丁寧に読み解くことが重要です。
2. 課税が原則、ただし「除外」がある
公益法人等が34種のいずれかの事業を行えば、本来目的の事業であっても原則として収益事業となり課税対象です(法基通15-1-1)。ただし、公益認定法2条4号の「公益目的事業」は収益事業から除外できます。さらに請負業には以下のような「請負業からの除外」もあります(令5条1項10号イ~ホ、法基通15-1-27,28)。
- 法令に基づく国・地方公共団体からの委託で、対価が必要費用を超えないことが明らかなもの(超過時は返還等の規定があること、かつ委託が法令に従うこと)。
- 実費弁償による事務処理の受託を、契約や規程に基づき行い、所轄税務署長等の事前確認(おおむね5年)を受けたもの(法基通15-1-28)。
- 土地改良事業団体連合会の特定の請負、特定法人の農業関連請負、学校法人の一定の受託研究、国民健康保険団体連合会の一定の受託など特例列挙。
注意すべきは、実費弁償の確認を得ても、その後の運営が実態として「利益が出る構造」に変質すれば確認が取り消され、遡及課税のリスクがあること。配賦を含めた費用算定の妥当性を常にメンテナンスしましょう。

3. 他の特掲事業との関係—「二度判定しない」の原則
同じ受託・委託の形でも、事業の性格からみて他の特掲事業(印刷業、出版業、興行業、料理店業など33種のいずれか)に該当するなら、まずはそちらで判定します。
そして、他の特掲事業で判定した結果に対し、「やはり委託だから請負業でも課税」という二重判定はしません(法基通15-1-29)。
例として学校給食の外部委託は、まず「料理店業その他の飲食店業」に該当するかで判断し、同業の注書きにより非該当となるなら、請負業へ振り替えて課税することはしない、という整理が実務上の安心材料になります。
4. 事例でつかむ射程—拡大解釈を避ける視点
- 大学の受託研究・医科大学の治験:教育・医療活動の一環でも、成果を委託者に報告し対価を得れば請負業に該当し課税。ただし学校法人の「一定の受託研究」は除外条項の対象になり得ます。
- NPOの障害福祉サービス:医療・保健の実体があれば「医療保健業」へ。そうでないサービスは請負業に位置付けられうるため、契約の中身と実施実態の整合が鍵です。
- 学童保育・認可外保育:同一のサービスでも「自主事業」なら34種に当たらず非課税、行政委託だからといって直ちに請負業とすべきではないとの見解もあります。サービスの実体(何を誰に提供しているか)を起点にします。
- 指定管理:行政起点で請負業と整理されがちですが、まずは実体を分解し、他の特掲事業に該当しないか、除外規定や実費弁償の適用可能性がないかを検証します。
過去の裁決には、請負業を広くサービス全般に及ぼすような見方もあります。しかし、租税法律主義の観点からは、条文と通達に沿った限定解釈を基本に据えるのが安全です。
5. 実務で迷わないための「4ステップ判定」
Step1|他の特掲事業で判定できないか?
まず他の33種のいずれかで該当性を検討し、該当すれば請負業への付け替えは不要です。
Step2|法令委託の除外要件を満たすか?
国・自治体委託で「必要費用内」「超過返還」「法令に従う」の3点を契約・根拠法令で確認します。
Step3|実費弁償の確認を取れるか?
契約・規程に「実費相当」「短期精算」「剰余時の手数料減額等」が明記されているか。税務署長確認(概ね5年)を事前取得。
Step4|そもそも請負業に当たる実体か?
成果に対する報酬か/単なる事実証明ではないか/委任・準委任の中でも「事務処理の受託」に当たるのかを具体的に点検しましょう。
6. 非営利型法人の判定との関係
共益的活動を目的とする一般社団・一般財団の非営利型法人では、「主たる事業として収益事業を行っていないこと」が要件の一つ。ここで実費弁償の確認を受けた業務は収益事業に当たらない取扱いとなり、非営利型の判定においても救済的に働きます。主たる事業の設定や事業計画の段階から、実費弁償の設計・確認取得のスケジュールを組み込んでおくと安心です。
7. 契約と原価の整備—トラブルを未然に防ぐ
- 契約書:受託内容、成果物の帰属・公表、費用範囲、超過時の返還、短期精算、手数料の是正条項を明記。
- 原価計算:直接費だけでなく減価償却費、人件費、共通費の合理的配賦をルール化。
- モニタリング:四半期ごとに実費乖離を検知、必要なら手数料調整。
- 記録:根拠法令・指導文書・確認通知の保管徹底。
これらは、後日の「実費ではなかった」指摘や確認取消・遡及課税のリスクを大きく減らします。
8. まとめ—「実体起点」「二重判定なし」「実費弁償の徹底」
請負業は扱いが広い反面、実体起点で他の特掲事業を先に当てる、二度判定しない、実費弁償は設計と確認をセットでという3本柱を守れば、判断はぐっとクリアになります。
公益法人等の活動意義を損なわないためにも、拡大解釈に流されず、条文・通達と契約実務を丁寧に接続する。—それが現場で強い「迷わない運用」です。
よくある誤解Q&A
Q. 行政からの委託なら自動的に非課税?
A. いいえ。法令根拠・費用内・超過返還の三点が揃わなければ請負業として課税対象になり得ます。
Q. 実費弁償の確認があれば利益が出ても大丈夫?
A. 確認後に実態が変われば取り消しの可能性があり、過去に遡って課税されることも。定期的な原価見直しが不可欠です。
Q. 自主事業で非課税だったものを、同内容で委託化すると課税?
A. 直ちにそうは言えません。まずは事業の実体で33種を検討し、非該当なら請負業の適用可否を冷静に判断します(法基通15-1-29の趣旨)。
現場で使えるミニ・チェックリスト
- サービスの「相手方」「成果物」「対価の算定基準」は明確か。
- 対価は必要費用内に収まる設計か。超過時の返還条項はあるか。
- 実費精算は短期で運用できるか(原則翌年度内)。
- 共通費の配賦基準は合理的か(職員工数・面積・利用度など)。
- 他の特掲事業に当たらないことを先に文書で整理したか。
- 税務署長等の事前確認の取得スケジュールは引けているか。
日々の現場では、「契約の文言」と「運営の実態」がわずかにズレるだけでも結論が変わります。計画段階から税務・会計・現場の三者で設計をすり合わせることが、公益性と税務コンプライアンスを両立させる最短ルートです。
めい税理士事務所では、一般社団法人やNPO法人など、非営利法人ならではの会計・税務の悩みに、専門的にお応えします。またマネーフォワードを中心に、クラウド会計の導入から日々の運用まで丁寧にサポートいたします。