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少額減価償却資産(30万円未満)の注意点と、迷わない経理方法
ややこしい減価償却の中でも、「30万円未満は全額経費にできる特例」は使い勝手がよく、実務でも出番が多い制度です。一方で、300万円枠の管理や資本的支出との線引き、申告書の添付書類など、見落としやすいポイントもたくさんあります。今回は、制度の全体を整理しつつ、ミスを減らす経理処理についてもお伝えしたいと思います。
制度の全体像:だれが・何に・どこまで使える?
「中小企業者等の少額減価償却資産の特例(措法67の5)」は、
取得価額が30万円未満の減価償却資産を取得し事業の用に供したとき、その取得価額の全額を当期の損金にできる制度です。
- 対象期間:平成18年4月1日~令和8年3月31日取得・供用分(毎年延びている気が・・・)
- 対象者:青色申告の中小企業者等・農協等(常時使用従業員500人以下が目安)。令和4年度改正で通算法人は対象外。さらに、適用除外事業者(直近3年の所得金額年平均が15億円超など)は対象外。
- 対象資産:器具備品・機械装置などの有形固定資産に加え、ソフトウェア・特許権・商標権などの無形固定資産や所有権移転外リースで借手が取得したとみなされる資産、中古資産もOK。
- 主な除外:貸付用資産(主要な事業としての貸付を除く)は対象外(令和4年度改正)。
- 300万円枠:同一事業年度の合計が300万円まで(事業年度が1年未満なら年換算)。
- 申告要件:事業供用年度に損金経理し、別表16(7)(少額減価償却資産の特例明細)を確定申告書に添付。
重要:ほかの優遇(特別償却・税額控除・圧縮記帳・一括償却資産)との重複適用は不可。
10万円未満の物品で「消耗品費」処理や、20万円未満の一括償却資産を選ぶケースとは相互に排他です。制度の選択は期首に方針を決め、年度を通じて一貫運用しましょう。
資本的支出との線引き:原則NG、ただし“実質新資産”ならOK
修理・更新・増設などの資本的支出は、原則として本体と同じ種類・耐用年数の資産を新たに取得したものとして取り扱います(法令・通達の整理)。
ここで「じゃあ30万円未満なら特例が使える?」という疑問が生まれますが、原則は不可です。理由は、資本的支出が本体そのものの価値や機能に及ぶ一体的効果を持つため、少額資産の「独立した取得」とは見ないのが建付けだから。
ただし例外として、
- 規模の拡張
- 単独資産としての新たな機能の付加
など、実質的に“別個の新資産”を取得したと評価できるときは、30万円未満であれば本特例の適用余地があります。増設・追加ユニット・独立して管理できるモジュールなどは、「本体一体か、独立資産か」を技術仕様・管理実態で丁寧に判定しましょう。判断に迷う場合は、図面・見積・検収書・社内規程をそろえて論点整理しておくのが安全です。
経理処理はどっちが正解?「消耗品費」か「減価償却費」か
結論、どちらも税務上は有効です。要件は「当期損金算入」と「別表16(7)添付」が絶対なので、それさえ忘れなければ・・。
A. 消耗品費で処理
- 例)消耗品費/現預金 190,000
- シンプルだが、固定資産台帳に登録を忘れ、決算で別表16(7)の作成・添付を失念しがち。
B. いったん固定資産→減価償却費へ振替(個人的はおすすめ)
- 仕訳①:工具器具備品/現預金 190,000
- 仕訳②:減価償却費/工具器具備品 190,000
- 固定資産台帳に登録でき、別表16(7)や減価償却明細との突合が容易。
以前勤めていた事務所では、最初の事務所は「固定資産→減価償却費」、
次の事務所では「消耗品費」で処理していました。
いや、次の事務所では「器具備品費」、と10万円未満の消耗品費とは分けて管理していましたね。
いずれにせよ、会計ソフトでは固定資産台帳に登録していなかったため、時々失念しているケースを見たことがあります。(減価償却費の達人に登録していましたが、数が少なくて法人税の達人と連動させない場合には、それさえも失念していた場合も・・)
後々の償却資産税の申告も考えると、個人的には「いったん固定資産として決算で減価償却費へ振替」パターンをおすすめしたいです。
消耗品費でいく場合でも、取得時に資産台帳へ登録しておけば、申告添付の漏れや300万円枠の超過を防げます。
申告実務の落とし穴:別表16(7)・適用額明細書・償却資産申告
- 別表16(7)の添付漏れ
- 損金経理していても、明細書の添付がないと適用NG扱いのリスク。科目処理だけで満足せず、申告セットで必ず確認です。
- 適用額明細書の記載漏れ
- 法人税関係の特例を使ったら、適用額明細書で条項(措法67の5)を明示。未添付・虚偽記載は適用不可になりえます。
- 固定資産台帳に載っていない=償却資産税も不要、は誤り
- 少額の特例で会計上は全額費用でも、地方税(償却資産の申告)では申告対象になりえます。
- 償却資産の申告は毎年1月。別表16(7)にある資産は台帳未記載でもしっかり網羅する運用にして、申告漏れを防ぎましょう。
- 耐用年数の照会が必要になることが多いため、申告担当者と情報連携しておくと安全です。
- 300万円枠の超過
- 期末駆け込み購入で枠超過、翌期に回せない点に注意。
- 年度が短い場合は年換算を忘れずに。
ケーススタディ:こういう時、どう判断する?
- 中古ノートPC(22万円)×5台を同時購入
- 合計110万円。同一年度の合計が300万円以内なら全額特例OK。
- 資産ごとに独立性が高いため判定は明確。台帳登録→即時償却を推奨。
- 基幹システムのモジュール追加(単価28万円)
- 本体機能の拡張でも、追加モジュールが独立管理できるなら実質新資産と評価できる余地。エビデンス(契約書・仕様書)で一体性/独立性を立証可能に。
- 貸付用の測定機器(26万円)を副業的に一時貸与
- 貸付用資産は原則対象外(主要事業としての貸付は除く)。主たる事業内容・貸付の実態を整理し、適用可否を慎重に。
実務を安定させるチェックリスト(保存版)
- 期首に運用方針を決定:10万円未満、一括償却資産、少額特例の使い分け
- 対象者要件(中小企業者等、500人以下、適用除外事業者に該当しないか、通算法人の除外)
- 対象資産要件(30万円未満、貸付用の除外)
- 300万円枠の進捗管理(月次で台帳残高と連動)
- 資本的支出の判定メモ(独立資産といえる根拠資料を保管)
- 会計処理:固定資産台帳登録→減価償却費へ振替(推奨)
- 申告添付:別表16(7)・適用額明細書のセット確認
- 地方税対応:償却資産申告の対象洗い出しと耐用年数確認
まとめ
30万円未満の特例は、資金繰りと決算の見通しをよくする強力な選択肢です。ただし、300万円枠の管理、資本的支出の線引き、申告書の添付、償却資産税の対応など、気を抜いた瞬間にミスが出るポイントも多い制度。
固定資産台帳を起点に月次で進捗を見える化し、決算チェックリストと申告書添付のダブルチェックをルーティン化すれば、迷いはぐっと減ります。
めい税理士事務所では一般社団法人やNPO法人など、非営利法人ならではの会計・税務の悩みに、専門的にお応えします。またマネーフォワードを中心に、クラウド会計の導入から日々の運用まで丁寧にサポートいたします。