交際費の『10,000円基準』の徹底解説 ―改正ポイントと実務での判断のしかた

取引先との会食で「この費用は交際費になるのか?」と迷ったことはないでしょうか。特に最近は物価の上昇もあり、ちょっとした会食でも金額がかさんでしまうことがあります。そんな中で令和6年度の税制改正により、いわゆる“5,000円基準”が“10,000円基準”へと引き上げられ、実務の現場にも大きな影響を与えています。

本記事では、交際費の基本的なお話、新しい10,000円基準の内容や適用範囲、そして実際の会食や手土産など身近なケースにどう当てはめるかを、具体的にわかりやすく解説していきます。

目次

交際費ってどんな費用?

交際費とは、かんたんに言えば 「取引先や仕入先など、外部の人とのお付き合いのために使う費用」 のことです。会食・接待・贈り物などが代表例ですかね。

もともとは営業活動に必要な費用として、会社の経費(損金)にできてもおかしくないものですが、行き過ぎると「社長の私的な飲み食いまで会社の経費になってしまう」「役員の給与を隠す手段になる」といった弊害があるため、税法では原則として損金にできない(経費にできない)扱いになっています。

ただし中小企業にとっては、ある程度の交際費はどうしても必要です。そのため、現在は

  • 中小法人(資本金1億円以下)は年間800万円まで損金算入OK
  • 資本金100億円超を除く法人は接待飲食費の50%が損金算入OK

    といった特例が設けられています。

「10,000円基準」とは?(改正のポイント)

では今回のテーマ、「10,000円基準」について見ていきましょう。

これは 1人あたり10,000円以下の飲食費は、交際費ではなく“経費”として扱える というルールです。
もともとは「5,000円以下」が基準でしたが、令和6年度の改正で 倍の10,000円 に引き上げられました。

背景には、コロナ禍や人件費・材料費の高騰、そして最近の物価上昇があります。飲食代の相場が上がるなか、従来の5,000円では実態に合わなくなったことから、緩和措置として見直されたわけです。

適用時期の注意点

  • 令和6年4月1日以後に支出した飲食費から適用
  • 事業年度は関係なし。支払った日で判断します

たとえば12月決算法人なら、令和6年1月~3月に支払った飲食費は5,000円基準、4月~12月に支払った分は10,000円基準が適用されます。

どんな費用が対象?対象外になるのは?

対象となる費用

  • 得意先や仕入先など「外部の人」を接待するための飲食費
  • 飲食店での会食、打ち合わせ後の食事など

対象外となる費用

  • 贈答品費用(中元・歳暮、ギフトセットなど)
  • ゴルフや旅行、観劇などのイベント中の飲食(催事と一体とみなされるため)
  • 社内の飲み会(慰労会、社員だけでの懇親会など)
  • 送迎タクシー代など、飲食店以外に払う関連費用

例外的に対象になるもの

  • 取引先の行事に差し入れる弁当(すぐに食べる想定がある場合)
  • 会食したお店で提供しているお土産用の折詰(寿司折り、月餅など)

判定は「1人あたり全部込み」で

ここでよくある疑問が「どこまでを飲食費に含めるのか?」という点です。

答えはシンプルで、お店に支払った金額すべてを含めて人数割します。料理代だけでなく、個室料・テーブルチャージ・サービス料も含まれるのです。

また、税込経理をしている会社なら税込で判定、税抜経理なら税抜で判定します。

例)

  • 料理8,000円+個室料2,000円+サービス料1,600円=11,600円/人

    →10,000円を超えるので交際費扱い

「超えたら全部アウト」の考え方

「1人12,000円なら、10,000円まではOKで、残り2,000円だけ交際費になる?」と聞かれることがあります。

答えは NO
1円でも超えたら全額交際費扱い です。按分はできません。

さらに、「社長が超えた分をポケットマネーで出せばOK?」という工夫も不可です。判定はあくまで「お店に支払った総額 ÷ 人数」で行います。

適用を受けるための帳簿書類

10,000円基準を使うためには、一定の情報を記録・保存しておく必要があります。内容は次の5点です。

  1. 日付
  2. 相手先の氏名や会社名、その関係性
  3. 参加人数
  4. 金額、店名・住所など
  5. その他参考になる事項

ポイントは「社内の誰が参加したか」は要件に含まれていないこと。大事なのは「外部の人がいて、金額基準を満たしている」と証明できることです。

特に②と③の誰と、何人で、の情報は領収書やレシートには情報としてないですから、その領収書やレシートの裏に記載しておくことが実務的には重要になってきます。

実際のケースで考える「これってどうなる?」

中元・歳暮の贈り物

→ 物品の贈答なので対象外。金額に関わらず交際費。

弁当の差入れ

→ 差し入れた場で食べるなら対象内。保存食品のギフトは×。

会食+同じ店のお土産

→ 合算して判定OK(寿司店の折詰など)。

ゴルフコンペの昼食

→ イベントと一体なので全体が交際費。昼食だけ切り分けられない。

会議中の弁当

→ 交際費ではなく「会議費」。金額が1万円を超えてもOK。

実務で迷わないためのチェックポイント

  • 外部の人がいる?(社内だけなら不可)
  • 飲食そのもの?(贈答や催事は不可、弁当差入れや同店土産はOK)
  • 1人当たり全部込みで10,000円以下?
  • 帳簿書類に必要事項を残している?

まとめ

令和6年度の改正で、5,000円基準から10,000円基準へと引き上げられた交際費の取扱い。これにより、実務上の会食が「交際費ではなく経費で処理できる」場面は確実に広がりました。

ただし、判定のルールは厳格で「超えたら全額アウト」「関連費用も含める」など注意点も多くあります。帳簿や証憑の保存をしっかり行い、会計処理の段階で迷わないようにしておくことが大切です。

会食は単なる経費処理ではなく、取引先との関係を深める大切な時間でもあります。税務のルールを正しく理解して、安心してお付き合いの場を楽しめるようにしていきたいですね。

この記事をシェアする
  • URLをコピーしました!
目次