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福利厚生費の税務取扱いとリスク回避のポイント
「社員に喜ばれる制度を整えたいけれど、税務は大丈夫?」――福利厚生は採用・定着のカギですが、取り扱いを誤ると“給与課税”や“交際費”に振り替わり、思わぬ税負担につながります。今回は福利厚生費の基本原則から、社内行事・記念品・親睦会・交際費との線引き、そして調査現場で指摘されがちなポイントまでを、実務目線で分かりやすくお伝えしたいと思います。
福利厚生費の大原則と「給与」判定
福利厚生の税務は、まず原則から。会社から従業員等へ与える給付は、現金だけでなく現物や役務による経済的利益も含め、原則「給与所得」に当たります。ここから例外的に、社会通念上一般的な福利厚生と認められるものに限って、課税しない(給与にしない)扱いが許されています。
非課税の可否は次の3つの要素で判断します。
- 対象の公平性:特定の人だけのためではなく、おおむね全従業員を対象にしているか(役員のみは原則×)。
- 金額の相当性:内容・規模に照らして不相当に高額ではないか。
- 換金性の有無:金銭と同視できるもの(プリペイドカードなど高い換金性があるもの)は原則×。
これは、源泉徴収の要否、役員分が役員賞与で損金不算入となるか、さらには消費税の課税仕入れ該当性といったことにも影響します。
規程整備とカフェテリアプランの注意点
福利厚生規程があるだけで非課税になるわけではありませんが、対象者・金額・手続きを明記し、規程どおり一貫運用している事実は、調査対応で強い後ろ盾になります。最近は各社オリジナルの制度が増え、通達に明記のないメニューも登場します。その場合でも、
- 対象の公平性
- 金額の相当性
- 業務上の必要性・合理性
を説明可能な資料(企画書、稟議、利用実績、費用対効果のメモなど)で支えることが重要です。
カフェテリアプランはメニューごとに課税・非課税を判定します。特に換金性のあるメニューがひとつでも混ざると全体課税とみなされやすい点に注意(例外判断が示された裁決例もありますが、基本は慎重運用)。
税務調査で狙われやすい論点
調査現場では、次のような支出が“福利厚生の名を借りた給与・交際費”と見られがちです。
- 特定者のみへの物品支給や保険加入
- 参加者を限定した慰安旅行、不参加者へ現金支給する形
- 給食・食事補助で、従業員負担が5割未満/会社負担が月3,500円超等
- 本来個人が負担すべき会合費を会社負担にしているもの
また、「現金じゃないから非課税」と誤解されがちですが、現物給与でも経済的利益があれば原則課税です。実務では少額不追及の運用はありますが、過度・高額・恣意的なものは課税・交際費認定の対象になり得ます。
社内行事・社員旅行の実務
社内行事の範囲
レクリエーションなど社会通念上一般的な行事で、受ける利益が少額と認められるものは、少額不追及の考え方により給与課税しない取扱いが広く認められます。ただし、
- 不参加者に現金を配る(選択で現金が得られる)形は給与扱い
- 特定の者のみの行事は課税
と注意が必要です。
社員旅行の目安
社員旅行は、通達のチェックリスト要件(実施目的・行程・参加割合・負担割合・回数等)の充足が基本で、要件を満たしても、会社負担が社会通念上多額だと給与認定される場合があります。実務上は1人当たり10万円程度までが非課税例として案内されてきましたが、企画前に最新の取扱いと負担水準を確認が必要になってきます。
表彰・記念品・慶弔の取り扱い
記念品・永年勤続表彰
- 創業や増資等の記念品は、記念品の処分見込価額1万円以下で、概ね5年以上ごとの支給といった要件を満たす限り、非課税としやすい領域です。現金支給に代える場合は課税になります。
- 永年勤続表彰も、儀礼性が強く、勤続年数が概ね10年以上の人を対象に、社会通念上の範囲なら非課税とされます。ただし自由選択型カタログギフトのように金銭支給と同様の効果を持つ形は課税となります。
- 旅行券の支給は原則課税ですが、「1年以内に使用・相当な範囲・実施報告書・未使用は返還」などの厳格な制限を課すことで、非課税の余地が生まれます。
成績優秀者の抽選旅行
抽選でも、抽選対象者が業績基準で限定されているなら、受ける利益は勤務対価性が強く、給与所得とされるのが基本です。
慶弔金と規程の有無
慶弔規程がなくても、金額が社会通念上相当で、社内のバランスが取れているなら、福利厚生費として処理可能です。もっとも、規程整備と社内一律運用はリスクを下げます。
従業員団体(親睦会)の損益帰属
会社が費用の相当部分を負担し、役員の選出・運営関与・施設提供などに該当する場合、原則、親睦会の収益・費用は会社の収益・福利厚生費として扱います。
一方、会社から独立した人格なき社団等に該当する親睦会は、通常は会費で運営される限り法人税の課税ないですが、裁判例でも、実態に応じて会社帰属か独立かが厳しく見られます。会計処理は、
- 会社帰属なら:親睦会への拠出=内部振替、親睦会での実支出時に損金
- 会費区分があるなら:会社負担相当額のみを福利厚生費、会費相当は預り金等で整合
といった実務が必要となってきます。
交際費との線引き(どこまでが福利厚生か)
措置法通達は、従業員の慰安のための運動会・旅行等の通常要する費用や、社内で一律に供与する通常の飲食、従業員やその親族の慶弔金を交際費に含めないと明示しています。
ただし、創立記念の対外宴会や進水式・起工式など、取引先等を招く行事は交際費。従業員が出席していても全額交際費扱いになります。
また、特約店のセールスや下請従業員に対する慰安費や慶弔費も、実態が従業員に近ければ交際費に含めない取り扱いがあります。
裁判例は、費用の通常性と一律性・基準性の欠如に厳格です。例えば、特定メンバー向けに繰り返された高額な酒食は交際費と認定されています。設計の段階で、
- 目的(慰安・健康・安全)を明確化
- 対象の公平性を担保
- 金額水準の妥当性を検証
- ルールと記録(稟議・参加名簿・負担内訳)を残す
というようなことが重要です。
事例で学ぶミニQ&A
Q1. 規程なしの慶弔金は福利厚生費になる?
A. 金額が社会通念上相当で、社内のバランスが取れていれば福利厚生費で処理可能。将来の紛れを避けるため、簡易でも基準表の整備をおすすめします。
Q2. 創立50周年で記念品を配りたい。交際費になるのは?
A. 従業員・OBへの記念品は、記念性・少額・一定周期などの要件を満たせば福利厚生費。取引先社員への贈呈分は交際費となります。なお、記念品は現金以外で、処分見込価額1万円以下が実務の目安です。
まとめ
福利厚生は“人”のための投資です。税務は対象の公平性・金額の相当性・換金性という三本柱に、規程整備と記録をしっかりとすれば、過度なリスクを避けつつ運用できます。社内行事や記念品、親睦会、カフェテリアプランなど、設計段階で交際費・給与課税を意識し、説明できる資料を残す――この積み重ねが、採用力の向上と、税務調査での安心を両立させます。
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