役員等の旅費交通費、どこまでが「業務上」?~トラブルを避けるための実務ポイント~

企業活動において「人が動く」ということは、当然コストが発生するということでもあり、営業、商談、視察、打ち合わせなど、日々の業務において、いわゆる旅費交通費が発生するはず。とりわけ役員が移動を伴う業務にあたる際は、旅費の支給方法やその課税関係についても注意が必要です。

今回は、役員等の旅費交通費について、税務上・実務上の取り扱いをわかりやすく整理し、そのポイントをお伝えしたいと思います。


目次

旅費交通費とは?そして、なぜ問題になりやすいのか

そもそも旅費交通費とは?

旅費交通費とは、業務上の出張などにおいて発生する交通手段(電車、飛行機、バス、タクシー等)の利用料、宿泊費、日当などを指します。これらの費用は法人が負担することで損金(法人税の計算上、経費として認められる支出)に算入され、同時に従業員や役員への支給額が非課税となることもあります。

ただし、その出張が「業務に必要だったか」「支給額は常識的か」といった点が問われることもあり、特に税務調査では注目されやすい科目のひとつです。

「不透明さ」に注意

旅費交通費は、領収書が不要なケース(日当や定額支給)や、出張の事実関係を記録するだけで精算できるケースが多く、内部文書のみで処理が完了することが多いので、不正の温床にもなりがちです。

架空出張や過大な旅費精算など、公的機関における不正報道を見たことがある方も多いのではないでしょうか。中小企業においても、書類不備や手続きミスが否認のリスクを招くことがあります。

非課税旅費として認められる条件とは?

基本的な非課税の考え方

所得税法第9条により、勤務場所を離れて職務を遂行するための旅費は「通常必要であると認められる範囲内」であれば、給与としては課税されません。

その基準は、以下のように示されています(所基通9-3):

  • 役員や従業員全体でバランスが取れていること
  • 同業他社と比較して妥当な水準であること

つまり、旅費規程でしっかりと金額基準が定められており、役職・出張地などに応じた合理的な支給内容であれば、非課税扱いが認められるのです。

旅費規程の整備は必須

企業によっては、旅費規程が存在せず、出張のたびに実費精算をしている場合もあります。しかし、日当や宿泊費、交通手段のグレード(例:新幹線のグリーン車利用)など、曖昧になりがちな旅費の支給においては、旅費規程を作成しておくことで処理の透明性が増し、税務リスクも軽減されます。

また、社内ルールがない場合、高額な旅費を支給するとその全額が給与課税されてしまう可能性もあるため、注意が必要です。

内閣総理大臣の日当は1日3,800円

日当や宿泊費は、税務上、どこまで出せるかはっきりしとした決まりはなく、社会通念上相当な範囲内に設定しなければならいと決められており、参考として総理大臣の規定は下記の通りになります。

  • 日当(一日当たり)  :3,800円
  • 宿泊料(一夜当たり) :19,100円(地方により17,200円)
  • 食卓料(一夜当たり) :3,800円

総理大臣と一企業の社長とで、比較するのは実情にそぐわないかもしれませんが、税務署が基準の一つとして考えている側面はあります。

海外出張・視察における注意点

海外渡航費の「業務性」の判断

海外出張となると、旅費の金額も大きくなり、税務調査においても特にチェックが厳しくなります。

法人税基本通達9-7-6においては、海外渡航が「業務遂行上必要」であれば、旅費は損金算入が認められるとされています。ただし、旅行代理店のツアーや観光を主としたスケジュールは、業務目的とは認められません。

「出張報告書」や「視察報告書」を作成し、「誰が、どこに、なぜ行き、どのような成果があったか」を明確に記録しておくことが大切です。

海外出張は写真も大事

海外出張においては、行った先での写真も意外と重要な証拠書類になることもあります。出張先での会議の様子、現地取引先の営業関係者、要人等の記念写真など、スケジュールと合わせてしっかり記録を残しておくことが大事となってきます。

観光を兼ねた出張の取り扱い

業務目的の出張に観光を組み込む場合、その費用は業務と私的部分に分けて按分処理する必要があります。例えば、5日間の出張で3日間が業務、2日間が観光であれば、旅費のうち業務に該当する3日分のみが損金・非課税扱いとなります。

観光部分を会社が負担すれば、その分は給与として課税される可能性があるため、個人立替とし、速やかな精算処理を行うことが求められます。

電子取引と旅費の保存方法

ICカードやWeb予約の取り扱い

社員が個人所有のSuicaやスマートフォンで出張費を立替えた場合、それらの決済情報は基本的に「会社の取引情報」とはなりません。ただし、旅費規程に基づき精算処理を行う際、その明細や領収書が精算書に添付されていれば、会計書類として有効です。

ICカードの履歴は私用と混在している可能性があるため、出張申請・精算書・報告書の整備が前提になります。

電子帳簿保存法との関係

令和5年以降は、電子取引データ(例えば航空券のPDFやWeb決済明細)を電子保存することが原則となりました。紙での保存は原則NGです。ただし、個人のスマホ等で予約・決済された場合は、電子取引情報とはみなされないケースもあり、取り扱いには柔軟性が必要です。

インボイス制度についての特例

インボイス制度においては公共交通機関特例と出張旅費特例の2種類の特例があり、税込3万円未満の公共交通機関を利用した場合は、事実を記載した帳簿のみでもOKとされます(公共交通機関なのでタクシー代やレンタカー代は3万円未満でもインボイスが必要です)。

出張旅費特例を適用する場合は、会社が役員・従業員に対して支払う旅費交通費が対象となり、これには日当や宿泊費も含まれます。
出張旅費特例の適用を受けるためには、いくつか条件がありますが、旅費規定による出張旅費、宿泊費、日当等の精算となり、従業員等が作成した「旅費精算書」等により仕入税額控除が受けられます。

いずれも帳簿に「出張旅費特例」「公共交通機関特例」と記載すればOKです。

実務上のトラブルと対策

旅費交通費は金額が小さい場合でも「蓄積すると大きな税務リスク」になり得ます。以下に、よくあるトラブルと対処法をまとめます。

トラブル例原因対策
出張の事実が曖昧出張許可や報告書が未作成出張伺い・報告書・精算書を整備する
規程に不明瞭な点がある支給額に上限がなく高額化他社事例があれば参考に相場内で設定する
実態と精算内容がズレる日当やランクに誤り精算書をチェックし役職・目的に合致させる
海外出張の業務性が不明観光目的と疑われる視察報告書や行程表で業務性を証明する

まとめ:制度と記録が「正当性」をつくる

役員等の旅費交通費の取り扱いは、「適正な支給」と「正確な記録」があって初めて、非課税・損金算入が可能になります。制度が曖昧であることが最大のリスクであり、裏を返せば、社内規程と手続きがきちんとしていれば、そこまで大きな問題に発展することはほとんどありません。

特に以下の3点を意識したいです。

  • 旅費規程を整備し、全社で共有する
  • 出張ごとに「申請→出張→報告→精算」の流れを徹底する
  • 支給金額が他社と比べて極端でないかを常にチェックする

適切な旅費の取り扱いは、社員のモチベーションにもつながり、企業の信用にも関わる大事な経理管理です。日々の積み重ねが、企業運営の健全性を支えていることを忘れないようにしたいものです。

めい税理士事務所では一般社団法人やNPO法人など、非営利法人ならではの会計・税務の悩みに、専門的にお応えします。またマネーフォワードを中心に、クラウド会計の導入から日々の運用まで丁寧にサポートいたします

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