外注費と給与の違い、きちんと見極められていますか?

現代の働き方は多様化しています。リモートワーク、副業、フリーランスなどの形態が浸透する一方で、企業が個人に支払う報酬について「これは外注費?それとも給与?」という判断がますます難しくなっています。

契約書には「業務委託」と書かれていても、実態はどうか。税務調査ではこの「実態」によって外注費と給与が峻別され、その結果次第で大きな追徴課税が生じる可能性もあるのです。本記事では、税法上の基本から、通達や裁判例、実務上のリスクまでを丁寧に解説していきます。

目次

外注費と給与の基本的な違いと判断基準

法律上の定義と契約形態

所得税法では、事業所得(外注費に相当)と給与所得の違いを次のように定めています。

  • 事業所得(第27条):独立して行う事業から得られる所得。
  • 給与所得(第28条):雇用契約等に基づいて、指揮命令の下で提供される労務の対価。

また、民法上では以下の契約類型が判断の目安となります:

また、民法上では以下の契約類型が判断の目安となります:

契約形態定義税務上の扱い
請負契約成果物を完成させる契約外注費
準委任契約業務を遂行する契約(成果物は不要)外注費
雇用契約指揮命令下で働く契約給与

“業務委託契約”という用語は、法律上の明確な定義がなく、実態が問われる点に注意が必要です。

税務上の判断基準

税務署では通達に基づき、以下のような実態をもとに判断します:

  1. 非代替性:他人による代替が可能か?
  2. 時間的拘束:勤務時間が指定されているか?
  3. 指揮監督性:作業方法に指示があるか?
  4. 危険負担:成果物の滅失に責任を負うか?
  5. 材料等の支給:材料や道具を誰が用意するか?

これらの要素を総合的に判断し、契約書よりも実態が重視されます

外注費と給与の判断を誤った場合の税務リスク

外注費として処理していた報酬が、税務調査で「給与」と認定されると、次のようなリスクが生じます。

消費税の仕入税額控除の否認

給与は課税仕入れに該当しないため、仕入税額控除ができません。そのため、外注費と処理した金額が給与と判断されれば、その分の消費税控除が否認され、追加納税が必要になります。

源泉所得税の徴収義務

給与と認定されれば、支払者に源泉徴収義務が発生します。徴収していなかった場合は、過去にさかのぼって源泉税を納める必要があり、不納付加算税や延滞税が加算されます。

シミュレーション】月55万円の報酬が5年間「給与」と判断された場合

項目1年間3年間5年間
消費税追加納税60万円180万円300万円
源泉所得税(乙欄)約205万円約616万円約1,027万円
加算税・延滞税等約46万円約138万円約229万円
合計リスク額約312万円約937万円約1,562万円

のように、給与と判定された場合のリスクは非常に大きな金額になります。

裁判例や具体事例にみる判断基準の適用

昭和56年最高裁の基準

  • 事業所得:独立・営利・有償・反復継続の意志がある業務
  • 給与所得:雇用関係に基づき、指揮命令に従い提供される労務

この判断枠組みは令和の現在も有効とされ、東京高裁でも支持されています。

具体的な裁判事例

【外注費と認定された事例】

ホテルの料理長が勤務し給与を得ていたが、給与とは別に「調理場委託料」として受け取った報酬が外注費と認定されたケース。料理人の採用・指導・給与決定を自身で行っており、また「調理上委託料」から他の料理人に給与を自ら支払っていたことにより、独立性が認められました。

【給与と認定された事例】

元従業員が業務委託契約に切り替えた後も、勤務時間や作業内容に変更がなく、元従業員が作業を休むこととなった場合には、元従業員が代替の作業員を手配するのではなく、会社が代替作業員の手配をしていた、会社の指示に従っていた、材料は元従業員が購入することなく、会社から支給されていた等の実態から「給与」と判定されたケース。書類上の形式よりも、実態が重視されました。


調査事例:フリーランスSEに支払った外注費が給与と認定されたケース

あるIT企業(甲社)は、業務拡大に伴いフリーランスのシステムエンジニア(SE)A氏と業務委託契約を締結し、外注費として報酬を支払っていました。しかし、税務調査ではその実態により「給与」と認定され、追徴課税が行われました。

税務署の判断根拠

  • A氏は社員とチームを組み、チームリーダーの指示下で業務を遂行
  • 成果物ベースではなく、時間単価での報酬支払い
  • 指揮命令に服し、自己の裁量で仕事をしていない

これらの実態から、形式上は業務委託契約でも、実態は雇用契約とみなされました。

税務上の影響

  • 源泉所得税の徴収漏れ(追徴)
  • 消費税の仕入税額控除の否認
  • 場合によっては社会保険の適用問題にも波及

実務での対応と判断基準を満たすための対策

形式的な契約書だけでは不十分であり、「実態」を裏付ける証拠の整備が重要です。

外注費としての妥当性を確保するために

  • 請負契約書・準委任契約書の整備(成果物、報酬額、支払い条件、納品方法の明記)
  • 成果物の検収・納品記録の保存
  • 業務遂行方法の裁量性(マニュアル指示の排除)
  • 使用する材料や用具の負担区分の明確化

給与としての正当性を確保するために

  • 雇用契約書、賃金台帳、出勤記録の整備
  • 有給休暇申請、通勤手当支給などの制度整備
  • 勤務時間の管理と労務管理の履歴
  • 指揮命令系統を示す社内規程や業務命令書

まとめ:契約書より実態、準備が最善の防衛策

税務調査で最も重視されるのは、「形式」よりも「実態」です。契約書が業務委託でも、勤務実態が雇用と変わらなければ「給与」と判断される可能性は高くなります。

外注費として処理するには、業務の独立性や成果責任を明確にし、必要な証拠を整備しておくことが重要です。不安がある場合は、税理士等の専門家の助言を受け、事前にリスク回避の対策を講じておきましょう。

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