不動産所得の「必要経費」――どこまで入れていいか?

こんにちは。東京都千代田区水道橋で開業しています、税理士の竹岡悟郎です。

不動産の確定申告でいちばん迷いやすいのが、「これは必要経費にしていいのか?」という線引きではないでしょうか。単純に領収書があるからOK、という話なわけでもなく、逆に慎重になりすぎて、本来入れられる経費を落としてしまう方も。

今回は、その不動産所得における必要経費について、基本ルールから、よくある判断ポイント、税務調査で見られやすい点までを、簡単にまとめてみたいと思います。


目次

必要経費の基本は「家賃収入を得るために必要だったか」

不動産所得は、ざっくり言うと「家賃などの収入 − 必要経費」で計算します。
必要経費にできるのは、不動産収入を得るために直接必要だった支出です。

大事なのが、当然ですが、家事上の費用(プライベートな支出)は必要経費にならないことです。

一方で、現実には「仕事にも生活にも使っている」支出ってあるかなとは思います。たとえば、自宅の一部を事務スペースにしている場合の家賃・光熱費、スマホ代、ネット代など。こうしたものは「家事関連費」と呼ばれ、取引記録などに基づいて、業務に必要だった部分を明確に区分できるときに限り、その区分できる金額だけ経費になります。

つまり、ポイントはシンプルに、

  • 「不動産の管理・運営のための支出か」
  • 「私的な部分が混ざるなら、合理的に区分できるか(根拠を残せるか)」

この2つを押さえることが重要です。

まず確認したい「事業的規模」かどうかで、扱いが変わる

不動産貸付はすべて不動産所得ですが、「事業として行っているか」によって、税務上の扱いが一部変わります。

考え方としては、原則「社会通念上、事業と言える規模か」で判断しつつ、建物の貸付については目安として、

  • アパート等:独立した室数がおおむね 10室以上
  • 戸建て等:おおむね 5棟以上

に当てはまると、原則として事業と扱われます。

事業的規模になると、たとえば次のような差が出ます。

  • 青色事業専従者給与(家族への給与)や白色の事業専従者控除が使える/使えない
  • 資産の取壊し・除却などの損失を「全額」経費にできる/できない(業務規模だと上限あり)
  • 青色申告特別控除が、要件を満たせば最大55万円(一定の場合は65万円)/それ以外は10万円

「規模が小さいから経費が入れられない」という意味ではありませんが、使える制度・損失の扱いに差があるのが特徴といったところですね。


経費になりやすいもの・迷いやすいもの(不動産オーナー実務の要点)

実務で質問が多いと思われる項目をまとめてみたいと思います。

1) 税金(固定資産税など)は「いつ経費にするか」も重要

固定資産税・登録免許税・不動産取得税などは、内容により必要経費になり得ますが、いつの年の経費かがポイントになります。原則は「納付すべきことが具体的に確定した年」。ただし固定資産税のように納期が分割されているものは、納期の開始日や実際の納付日に合わせる取扱いもできます。

2) 修繕費か、資本的支出か(修理でもアウトになることがある)

「修理した=修繕費で一括経費」と考えがちですが、価値を高めたり耐久性を増したりする部分は資本的支出(=減価償却)になり、処理が変わります。

実際には修繕か資本的支出かの判断は難しかったりするのですが、実務では、次のような形式基準が使われる場合もあります(代表例):

  • 20万円未満の修理等、またはおおむね3年以内周期の修理等は修繕費として処理しやすい
  • 60万円未満、または取得価額のおおむね10%以下など、一定の場合に修繕費として扱えることがある

曖昧な案件ほど、見積書・工事内容・写真などをセットで残しておくと、後で説明しやすくなります。

3) 借入金利子は基本OK。ただし「赤字のとき」に注意

賃貸用不動産の借入金利子は、原則として必要経費になります。
ただし、不動産所得が赤字になった場合、土地等を取得するための負債利子に相当する部分の赤字は、損益通算の対象外というルールがあります。
(赤字なら何でも給与所得などと相殺できる、とは限らない点は要注意です。)

4) マンションの修繕積立金は、原則と例外がある

修繕積立金は、原則として「実際に修繕が行われ、その費用に充てられた部分」を修繕完了年に経費にします。
一方、一定の条件(管理規約に沿った適正な積立、返還義務がない、修繕目的以外に流用されない、長期修繕計画に基づく合理的算定など)を満たす場合、支払期日の年の必要経費として差し支えないとされています。

5) 立退料は「何のために払ったか」で所得区分が変わる

借家人に退去してもらうための立退料は、基本的に必要経費になり得ます。
ただし、賃貸物件(または敷地)を譲渡するための立退料は、譲渡所得の費用として扱われるなど、目的により取扱いが変わります。

6) 経費項目は幅広い。でも「不動産の運営のため」が芯

管理委託料、保険料、広告費、通信費、旅費交通費、専門家報酬、減価償却費など、経費になり得る範囲は広いです。
一方で、実務で揉めやすいのは「私的要素が混ざる支出」で、例えば、自宅利用分の按分、ローン利息の考え方などは、経費計上の注意点となりえます。

税務調査で見られやすいのは「家事関連費」と根拠の薄さ

所得税の調査では、「家事費・家事関連費の区分」が王道のチェックポイントで、
特に、車両費・自宅家賃や光熱費・ネット通信費などは、「不動産のために必要だった部分」を説明できないと否認されやすい領域です。

(平成23年3月25日裁決) | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所

実際の裁決事例でも、車両費や住居費、通信費等について「不動産賃貸のために使った具体的内容が十分に示されていない」「業務上必要な部分の区分が明確でない」といった理由で必要経費性が認められなかった例が紹介されています。

また、裁判例の解説では、必要経費の主張は納税者側で資料を整えやすい性質があるため、具体的内容を明らかにし、合理的に裏付けることが重要だという趣旨が述べられています。

対策としては難しいことをするより、次の3つを“淡々と”やるのがいちばん効きます。

  • 按分ルールを決めて固定(床面積、使用時間、通話明細、走行記録など)
  • 記録を残す(管理のための訪問記録、打合せメモ、発注書・見積書・写真)
  • 証拠はセットで保管(領収書だけでなく、契約書・請求書・明細・工事内容)

まとめ:経費は「入れる/入れない」より、「説明できる形」に整える

不動産所得の必要経費は、意外と幅が広い一方で、家事関連費や資本的支出などつまずポイントもはっきりしています。

大事なのは、経費を増やすことよりも、「この支出は家賃収入のために必要で、ここまでが業務分です」と説明できる状態にすることです。

もし、「これは按分でいいのか不安」「修繕か資本的か迷う」「立退料や解体費の処理がややこしい」
といった点があれば、早めに整理しておくと申告も調査対応もぐっと楽になります。

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