事業所得の「必要経費」どこまでOKか?迷いがちな判断を整理する

こんにちは。東京都千代田区で開業しています、税理士の竹岡悟郎です。

そろそろ確定申告の時期になってきましたが、「領収書は取ってあるけど、どこまでが必要経費なのか分からない…」という相談が増えてきますね。

必要経費は所得税法37条で定義されているのですが、現場では「これは経費なのか?」という相談が次々に出てきてきますが、条文だけではなかなか判断しづらいのが正直なところです。

目次

必要経費の基本は「売上を得るためのコスト」——所得税法37条の考え方

事業所得は、ざっくり言うと「1年間の売上(収入)−必要経費」で計算し、所得税法37条は、必要経費を大きく次の3つに整理しています。

1つ目は売上原価(仕入など、売上に直接対応する原価)。
2つ目はその売上を得るために直接かかった費用
3つ目は販売費・一般管理費など、事業の運営に必要な費用です。

そして大事なのが、「事業に関係しそうな支出=全部OK」ではないことで、必要経費として認められるためには、一般的に次のような見方がされます。

  • 事業との関連性が説明できる
  • 実際に費用として使われたと言える
  • 収益との関係が合理的に説明できる
  • 不自然な租税回避目的の取引ではない(通常あり得る取引)

要するに、「事業で必要だったと言えるか」「第三者に説明して納得してもらえるか」です。

「売上とセット」の経費と「その年の運営費」——費用収益対応で考える

必要経費は、収入との結びつきで大きく2つに分けると理解しやすくなります。

売上と個別に結びつく費用(個別的対応関係)

これは主に仕入取得費です。

たとえば、50円で仕入れた商品を100円で売ったなら、50円がなければその100円の売上自体が生まれない、みたいな、この支出がなければこの収入はないという関係にあるものは、基本的に全額が必要経費になります。

なお、売上が立つ前に支出している場合は、いったん商品という「資産」として持ち越し、売上が計上されたタイミングで費用になる点も大切です。

期間にわたって事業を支える費用(期間的対応関係)

一方で、従業員の給与、水道光熱費、通信費、店舗の保険料、レジのリース料、事務用品などは、どの売上に対応するかを1件ずつ結びつけるのは難しいですが、それでも、事業を回すために必要で、売上の獲得に貢献しているのは明らかです。こうした費用はその年(1/1〜12/31)に発生した分を必要経費として認識します。

ここで絡んでくるのが、減価償却や前払費用です。高額な備品や長く使う設備は「買った年に全部経費」ではなく、使用期間に応じて少しずつ必要経費にする、という考え方になります。

一番迷うのは「生活費との境界」——家事費・家事関連費の考え方

個人事業は、仕事と生活が同じ財布・同じ空間で混ざりやすいのが悩みどころです。所得税法45条では、家事上の費用(生活費)は必要経費にならないとされています。さらに、生活と事業が混ざる支出(家事関連費)も、原則は経費になりません。

ただし例外として、事業に必要な部分を明確に区分できるなら、その部分だけ必要経費にできます(区分できないなら入れない、というのが基本です)。青色申告の場合は、取引の記録などに基づき“直接必要だった部分”を明らかにできれば、柔軟に認められるところもありますが、どちらにしても「根拠を残せるか」が重要です。

その事業をしていなかったら、その支出は発生したか

実務的な考え方の一つとして、「もし、その事業を行っていなかったとすれば、その支出はされたのだろうか」という考え方も有用です。

たとえば、事務所を別に借りているなら、事業をしていなければ借りないので家賃は基本的に100%事業経費とでききますが、逆に、趣味のグッズを事務所に置いたとしても、事業の有無にかかわらず買っていそうなら経費性は弱い、という考え方です。

香典も同じで、取引先との関係が前提であれば必要経費になり得ますが、親族への香典は事業をしていなくても支出するので、原則は家事費と考えるのが自然ではないでしょうか。

自宅兼事務所の家賃・光熱費・スマホ代などは、この考え方だけでは割り切れず、床面積、使用時間、通話明細など、合理的な基準で按分し、毎年同じ基準で処理する必要があります。

「払ったか」ではなく「債務が確定したか」

必要経費は「現実に支払った金額」で決まるのではなく、原則としてその年中に支払うべきことが確定した金額で計算します。販売費や一般管理費などで特に重要なのが、法人税と同じく、いわゆる債務確定の考え方です。

実務では、次の3つがそろっているかで見ます。
(1) 年末までに債務が成立している
(2) 年末までにその債務の原因となる事実が発生している
(3) 年末までに金額を合理的に算定できる

たとえば、実際の修繕が行われていないのに「修繕積立金」を修繕費として計上してしまう、といった処理は、この要件で否認されやすいところです。
(なお、減価償却費のように見積り計上が前提のものは別枠で考えます。)

科目別にみる「経費になりやすいもの/なりにくいもの」

よく使う科目について、代表例をまとめてみます(業種や使い方で結論が変わるので、あくまで目安です)。

科目必要経費の具体例経費にならない(なりにくい)例
租税公課事業税、固定資産税、自動車税、印紙税、消費税など所得税・住民税、延滞税、加算税など
旅費交通費電車・バス・タクシー、宿泊代家族旅行の費用
水道光熱費事業で使う電気・ガス・水道自宅の生活用部分
通信費事業の電話代・郵送費私用分(区分できないなら不可)
接待交際費得意先への贈答、飲食接待親族・近所付き合いの交際費
給料賃金従業員の給与・賞与自分や生計一の親族への給与(原則)
地代家賃店舗・倉庫・駐車場の賃借料住宅部分の費用
利子割引料事業資金の借入利息元本の返済

また、罰金・科料・過料や、個人に課される所得税・住民税などは、考え方として「生活上の負担(所得の処分)」に近いため、必要経費にできません。会費(団体・クラブ)なども、事業上の必要性が客観的に説明できるかがよく見られます。

個人の損失は原則経費にならない

所得税法37条には「損失は必要経費」とは書かれていません。つまり、個人の損失は原則として必要経費にならず、事業用固定資産の除却損など、一定の場合に限って必要経費に入る(または雑損控除など別の制度で扱う)という形になります。法人税と感覚が違いやすいポイントなので注意しましょう。

迷ったときの実務ポイント——「説明できる形」にしておく

必要経費の判断で一番強いのは、「第三者に説明して納得してもらえる状態」になっていることです。大げさな資料は不要ですが、次の2つだけでも効果があります。

1つ目は、領収書・請求書に目的メモを残すこと(誰と、何の打合せで、何を得るためか)。2つ目は、家事関連費の按分ルールを先に決め、毎年同じ基準で処理すること(床面積、使用時間など)。この2つがあるだけで、経費判断がぶれにくくなり、税務調査の説明もしやすくなります。

必要経費は、節税のためというより、「事業の実態を、会計と税務の言葉で正しく写し取る作業」です。分からないところは放置せず、早めに整理して、気持ちよく申告期を迎えてくださいね。

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