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親子会社間の取引を整える(第2弾)―「人の動き」と「お金の動き」のポイント
こんにちは。東京都千代田区で開業しています、税理士の竹岡悟郎です。
企業グループでは、「子会社を立ち上げたい」「現場で人を育てたい」「経営管理を強化したい」といった理由から、親会社⇄子会社の人材交流なんかもよく行われます。
税務の世界では“人の動き=お金の動き”として見られやすく、設計や運用があいまいだと、あとから説明が大変になったり、損金(経費)として認められない場面が出てきたりします。
今回は、親子会社間の「出向」や「転籍」について、実務でつまずきやすいポイントを中心に、簡単に整理したいと思います。

出向と転籍の違いを、まずはふんわり把握する
似ているようで実は違うのが「出向」と「転籍」。
出向(在籍出向)は、雇用関係(籍)は出向元(たとえば親会社)に残したまま、実際の勤務先や指揮命令が出向先(子会社)に移るイメージです。給与の支払い方も、親会社が本人に払って子会社に請求する、子会社が直接払う、親会社に「経営指導料」の名目で支払う…など、いくつかの形があり得ます。そのため、どの会社がどこまで負担するかをしっかりと説明できるようにしておくのが大切になります。
一方で転籍は、出向元との雇用関係はいったん終了し、転籍先と新たに雇用契約を結ぶものです。「会社を移る」という感覚に近いので給与の支払主体は転籍先になりますが、退職金などが絡むと、別の論点が出てくることがあります。
出向先で役員に就任すると「役員給与」の論点が
親会社では従業員のままだとしても、出向先(子会社)で取締役などの役員に就任していれば、子会社側ではその対価は原則「役員給与」として扱われます。すると、法人税法上の役員給与のルールが適用され、定期同額給与などの要件に乗っていないものは損金にならない可能性が出てきます。
そして、ここがご提示のテキストの重要ポイントです。
出向先で役員に就任していれば、出向先法人が出向元法人に支払う出向給与負担金は、役員給与の税務の取り扱いの適用を受ける。
つまり、負担金の名目が「給与負担金」でも「経営指導料」でもなんでも、実態として役員の職務執行の対価にあたる部分が含まれていれば、その部分は役員給与として扱われ、税務上はどうなんだというチェックを受ける、ということになります。
ただ、出向者が出向先で「使用人兼務役員」になっている場合は少し考え方が変わり、役員でありながら、従業員としての職務が明確にある人については、その“使用人としての給与相当額”は損金算入できるところが出てくるため、役員給与の制度を影響を受ける部分と、そうでない部分を整理しやすくなることがあります。
ここは勤務実態や職務内容の整理がとても大切で、「使用人部分がどれくらいあるのか」を説明できるようにしておくのが安心です。
出向負担金は「中身を分けて考える」
実務では、出向負担金が必ずしも実費精算とは限りません。たとえば「経営指導料として売上高の○%」のように、定型の基準で計算しているケースもあります。こうした場合は、負担金の中身を区分して、それぞれの課税上の扱いを検討することになります。
たとえば、負担金の中身を「給与相当額」「福利厚生相当」「その他(管理指導の対価など)」のように整理し、そのうえで給与相当額部分について定期同額給与かどうかなどの検討していきます。大事なのは、役員給与の対象になるのは、基本的に給与部分や経済的利益として課税されるべき部分だという点です。
逆に言うと、出向負担金に法定福利費(社会保険料の会社負担分など)が含まれている場合、その部分まで「定期同額給与かどうか」という話に無理に乗せる必要はなく、給与部分だけを役員給与の対象として検討すればOKという感じになります。
出向負担金が「足りない」「ゼロ」の場合は、寄附金・受贈益の話が
出向があるとき、出向元が本人に支給した給与相当額を、出向先がきちんと負担金として支払っていれば、出向元側では通常、大きな課税問題は起こりにくくなります。しかし、出向先から受け入れた金額が給与相当額より少ない場合や、そもそも負担金をまったく収受していない場合には、出向元が実質的に負担している給与相当額を損金にできるのか、という論点が出てきます。
このとき、労務提供を受けているのは出向先なのに、出向先が実質負担をしていないと考えられる場合、原則として「出向元から出向先への寄附」や、出向先側の「受贈益(タダでもらった利益)」とされる可能性が出ます。
非上場企業では、グループ内のやり取りとして負担金を取っていないことが案外あったりして、税務調査での論点になる場合もあり、基本的には寄附金・受贈益になってしまうものだと考えておいた方がよいでしょう。
例外としての「給与較差補填」は、雇用契約が残る出向だからこそ認められる
出向負担金が給与相当額に満たないケースで、よくある理由が「給与水準の差」です。
親会社の給与ベースが高く、子会社の給与ベースが低い場合、子会社は子会社としての給与水準で負担金を支払う一方、親会社は雇用契約が維持されている以上、出向者の従来の給与を守る必要があり、その差額を親会社が負担する形になります。これが、いわゆる「給与較差補填」というやつです。
この較差補填というのが認められる背景には、「会社命令で出向させた従業員が、出向によって経済的に不利益を受けないようにする」という実務上の必要性があります。よって、親会社が負担する差額は単なる贈与的な支出ではなく、雇用契約に基づく支出として理解できる、ということです。
ただし、較差補填は万能ではなく、あくまで「親会社の給与ベースを維持するための差額負担」のときに認められるもので、出向で給与が上がったから差額を親会社が負担する、といったケースはちょっと趣旨が違います。
また、出向者が親会社の役員であって雇用関係ではない場合には、労働法的な保護を前提とした較差補填の考え方が使いにくい点もあったりしますね。
100%グループ(完全支配関係)の場合は、寄附金・受贈益の扱いが少し特殊
出向負担金を適切に収受していない場合、原則は寄附金・受贈益の整理になり得ますが、親会社と子会社の間に「法人による完全支配関係(100%)」があるときは、寄附金・受贈益の扱いが少し特殊になります。具体的には、親会社側では寄附金として損金不算入になり得る一方、子会社側では出向給与負担金として損金算入され、受贈益が益金不算入となる整理が出てきます。
ただ、この特殊な扱いがあるからといって、「負担金は取らなくてよい」と単純には言い切れません。実務では、取引の形を整えておいた方が、後から説明が必要になったときの負担が軽くなることが多いからです。
まとめ:やさしく言うと「誰が得して、誰が払うか」
出向・転籍の税務は、まあ難しく見えるのですが、根っこは比較的シンプルです。どの会社が出向者の働きによって利益を受けているのか、そしてその会社がどこまで費用を負担しているのか。この受益と負担がきれいにそろっていると、税務上の説明もスムーズになります。
特に、出向先で役員に就任している場合、出向負担金のうち給与相当部分が役員給与の対象になる点は押さえておきたいところです。
負担金が不足・ゼロの場合には寄附金・受贈益の論点が出てきやすく、例外として較差補填や100%支配関係の特殊な扱いも絡むため、早めに“中身の分解”と“根拠づけ”をしておくのが安心です。
