相続時精算課税制度について ― 改正後のポイントと選び方のコツ

こんにちは。千代田区水道橋の税理士の竹岡悟郎です。今回は令和5年税制改正により「基礎控除(年間110万円)」が創設された相続時精算課税制度について、改めて簡単にお伝えしたいと思います。

目次

はじめに ― 贈与と相続、どちらが得なのか?

親から子や孫への資産の承継については、できるだけ早い段階で、円滑に行いたいと考えるご家庭が増えてきました。その手段の一つとして「生前贈与」がありますが、実際に贈与をするときには「暦年課税」と「相続時精算課税」という2つの制度のうち、どちらを選ぶべきかで悩まれる方も多いのではないでしょうか。

2024年(令和6年)から、この「相続時精算課税制度」が大きく変わり、使いやすさが向上したことで、選択肢としての魅力が増した一方、注意点も多く、制度の本質をしっかり理解した上で活用することが大切です。

この記事では、改正のポイントを踏まえながら、相続時精算課税制度の仕組みや活用時の注意点、暦年課税との比較などをわかりやすく解説していきます。

相続時精算課税制度の基本と、今回の改正ポイント

相続時精算課税制度とは?

相続時精算課税制度では、60歳(その年の1月1日時点で)以上の父母・祖父母から、18歳(同じくその年の1月1日時点で)以上の子や孫への贈与に対し、累計2,500万円までは贈与税がかかりません。2,500万円を超えた分には一律20%の税率が課されます。将来、贈与者が亡くなった際には、贈与された財産の金額が相続税の計算対象に加算され、すでに払った贈与税がある場合には、その分を控除(または還付)するという流れになります。

令和5年度改正の主なポイント

従来、この制度を選択すると、どんなに少額の贈与でも贈与税の申告が必要でしたが、令和6年からは新たに「年間110万円の基礎控除」が導入されました。これにより、毎年110万円以内の贈与であれば申告も納税も不要となり、制度のハードルが大きく下がったと言えます。

一方で、暦年課税の方は、相続開始前の贈与加算期間が「3年→7年」に延長され、贈与財産が相続税に加算されやすくなる改正がなされました。

制度利用の落とし穴 ― 注意すべきポイント

相続時精算課税制度は便利な制度ではありますが、一度選択するとその後の贈与すべてがこの制度の対象となり、途中で撤回することができません。そのため、事前の理解がとても大切です。

軽率な選択に要注意

「とりあえず贈与税がかからないなら得だろう」と安易にこの制度を選んでしまうと、将来、相続税の計算時に思わぬ税負担が発生することがあります。また、一度選択すると暦年課税には戻れません。

届出書の提出ミスが命取りに

この制度を使うには、贈与税申告と同時に「相続時精算課税選択届出書」を提出する必要があります。提出を忘れたり、申告そのものをしなかった場合は、制度そのものが適用されなくなり、通常の贈与税(しかも加算期間含む)を支払う羽目になります。

相続時の申告漏れが頻発

税務調査でよく指摘されるのが「過去に贈与していたことを相続人が忘れていた」という事例。贈与の記録や贈与税の申告内容は、しっかりと保管し、相続発生時に確実に申告できるよう管理しておく必要があります。

暦年課税と比較してみよう ― どちらを選ぶべき?

ここで改めて、暦年課税と相続時精算課税を比較してみましょう。

比較項目暦年課税相続時精算課税
贈与者の条件制限なし60歳以上の父母・祖父母
受贈者の条件制限なし18歳以上の子・孫
基礎控除年間110万円年間110万円(令和6年以降)
特別控除なし一生涯累計2,500万円まで
税率累進課税(10~55%)一律20%
相続税加算相続開始前7年以内の贈与(110万円以下も対象)制度選択後の贈与全て(110万円以下は除外)
贈与税の還付なし控除しきれない贈与税は還付可能

この比較表からわかるように、どちらが有利かは、贈与する相手や金額、年齢、相続までの期間によって異なります。

改正後の選び方 ― ケース別の考え方

制度選択の判断は一概にはいえませんが、以下のような考え方が参考になります。

相続が近い場合は「相続時精算課税」が有利?

例えば、贈与者が高齢で余命が7年以内と考えられる場合、暦年課税では贈与した財産がすべて相続財産に加算されてしまいます。一方、相続時精算課税なら110万円の基礎控除分は加算されないため、制度を選んだ方が税負担が軽くなるケースも多く見られます(ただし、延長された7年前から4年前の4年間に贈与により取得した財産については総額100万円まで加算されません)。

長期間で多額の贈与なら「暦年課税」

贈与期間が10年以上で、贈与額が毎年少額(110万円~300万円程度)であれば、暦年課税の方が有利となることがあります。加えて、推定相続人でない孫への贈与であれば、相続財産に加算されず、節税効果が大きくなります。

財産の値上がり・値下がりも要チェック

将来的に値上がりが見込まれる不動産や非上場株式を贈与するなら、贈与時の評価額で相続税が計算される相続時精算課税制度が有利です。反対に、値下がりが見込まれる財産の場合には、この制度の利用は避けた方がよいでしょう。


制度のメリットとデメリット ― 最後に押さえておきたいこと

主なメリット

  • 早期の資産移転が可能:贈与税・相続税の両方が発生しない可能性もある。
  • 遺産争いを防ぎやすい:非上場株式の贈与など、争族リスクの回避に有効。
  • 贈与時の価額で固定できる:値上がり資産の贈与に最適。

主なデメリット

  • 制度選択の撤回不可:一度選ぶと暦年課税に戻れない。
  • 小規模宅地等の特例が使えない:贈与された土地には不適用。
  • 不動産贈与時の初期コストが大きい:登録免許税・不動産取得税が課税される。
  • 孫への贈与には2割加算:相続税の負担が増加するケースも。

まとめ ― 贈与計画は“早めに・柔軟に・慎重に”

令和5年税制改正により、相続時精算課税制度は使い勝手が向上し、選択肢としての魅力が高まりました。しかし、それでも「すべての人におすすめ」とはいえません。

制度の選択は、贈与者の年齢、財産規模、贈与先の関係性、贈与したい年数と金額など、さまざまな要素を総合的に考慮する必要があります。そして何より、贈与計画は“早ければ早いほど”節税効果が高まることも忘れてはいけません。

適切なタイミングと内容で制度を活用するためにも、税理士など専門家としっかり相談のうえ、ご自身のご家族に合った贈与のかたちを見つけていきましょう。


めい税理士事務所では一般社団法人やNPO法人など、非営利法人ならではの会計・税務の悩みに、専門的にお応えします。またマネーフォワードを中心に、クラウド会計の導入から日々の運用まで丁寧にサポートいたします。

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