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青色事業専従者給与とは?~開業医や個人事業主が注意すべきポイントと裁判例の教訓~
こんにちは。千代田区水道橋の税理士竹岡悟郎です。今回は青色事業専従者給与についてお伝えしたいと思います。
個人で開業されている方や家族で事業を営んでいる方にとって、「家族にお給料を払って経費にできる」という制度は魅力的だと思います。。それが「青色事業専従者給与」という仕組みです。しかし、この制度にはいくつもの要件や落とし穴があり、安易に使うと税務署から指摘を受ける可能性も。最近の判決でも、「どれだけ働いていても、その給与が高すぎると経費としては認められない」という厳しい判断が下されたりもしています。本記事では、制度の概要から実務上の注意点、そして実際の裁判例まで、分かりやすく解説していきます。
青色事業専従者給与とは?基本ルールを押さえよう
青色事業専従者給与とは、青色申告をしている個人事業主が、家族(配偶者や親族)に支払った給与を「必要経費」として認めてもらえる制度です。ただし、誰にでも支払えるわけではなく、所得税法第57条で定められた厳しい条件を満たす必要があります。
【要件1】生計を一にしていること
「生計を一にする」とは、必ずしも同居していることを意味しません。例えば、子どもが地方の大学に通っていても、仕送りをしているなど経済的に生活がつながっていれば、この要件を満たします。ただし、兄弟姉妹や親族であっても別家計で生活している場合は対象外となるため注意が必要です。
【要件2】15歳以上であること
12月31日時点で15歳以上であることが条件です。中学生以下の子どもなどは対象になりません。
【要件3】「専ら」従事していること
専ら従事とは、1日の大部分をその事業に費やしている状態を指します。以下のようなケースは原則、認められません。
- 学校に通っている(昼間)
- 他の仕事(アルバイト等)をしている
- 長期間の入院や療養をしている
ただし、夜間学校など勤務時間外であれば例外的に認められる場合もあります。
青色事業専従者給与で必要経費にできるのは「妥当な額」だけ
「家族に多めに給料を出して税金を安くしよう」と思っても、そこは要注意です。所得税法57条では、給与の金額が「労務の対価として相当である」場合に限り、経費として認められます。つまり、次のような視点で妥当性がチェックされます。
(1)仕事内容と労働時間に見合っているか
週に何時間働いているのか、どんな内容の仕事をしているのか。例えば、受付業務のみで月給50万円というのは過大と判断されるかもしれません。
(2)事業の種類・規模とのバランスはどうか
年商1,000万円の小規模事業で、家族に1,000万円の給与を支払っているような場合、規模に対して明らかに不釣り合いです。
(3)同種の事業との比較
他の同業者が同じような業務内容でどれくらいの給料を支払っているか、という観点でも判断されます。税務署側は地域・業種ごとに統計データを保有しており、それと大きく乖離していれば否認されることがあります。
届出書の提出と記載金額の厳守も重要
さらに、青色事業専従者給与を経費にするには、「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出が必要です。この届出は原則3月15日までに行う必要があります。また、支払額も届出書に記載した額を超えてはなりません。年の途中で給与額を変更する場合は「変更届」の提出も忘れずに。
【裁判例】年1800万円の専従者給与は妥当か?
この判例は、開業医の夫が、看護師である妻に対し、年間1,800万円の専従者給与を支払い、全額を経費に計上したところ、税務署から「金額が高すぎる」として否認されたのです。(長野地判令和4年12月9日(TAINS:Z272-13785)東京高判令和5年8月3日(TAINS:Z888-2580)
【事案の概要】
- 妻は診療所に勤務し、看護師長と事務長を兼任。
- 多様な業務を担当し、残業・休日労働も多かった。
- 夫は「労働内容や時間を考えれば、1,800万円は妥当」と主張。
【裁判所の判断】
裁判所は、配偶者の業務内容が多岐にわたることや労働時間が長かったことは一定程度認めつつも、次の点を問題視しました。
- 客観的な勤務実態を示す証拠が不十分(タイムカードや勤務表等)
- 同業者平均と比較して2倍以上の給与額であること
- なぜその金額になったのかの説明が不十分
その結果、裁判所は「労務の対価として相当ではない部分」については経費として認めず、類似同業者給与比準方式おける平均額との比較等により、次のような金額までしか認められませんでした。
- 平成28年・29年:各821万3,334円
- 平成30年:792万4,922円
【実務上の教訓】
この判決から得られる教訓は次のとおりです。
- 家族であっても、「どれくらい働いたか」の証拠が必要
- 給与額の根拠を明確にしておくこと(同業他社との比較資料等)
- 税務署は詳細な類似同業者データを持っているため、適当な金額では通用しない
実務で失敗しないためのチェックポイント
実際に青色事業専従者給与を導入する際には、以下の点を押さえておきましょう。
✅ 事前に届出書を提出すること(期限厳守)
青色申告開始から3月15日までに提出するか、新たに専従者が加わった日から2ヶ月以内です。
✅ 実態に即した労働時間と職務内容を明確に
勤務時間表、業務日報などを用意しておくと安心です。
✅ 支給金額は客観的な基準をもとに決める
他のスタッフの給料や同業他社の相場を参考に。
✅ 年の途中で変更するなら「変更届」を提出
無届けで金額を変えると否認リスクが高まります。
まとめ──「節税」ではなく「正当な報酬」として
青色事業専従者給与は、適正な手続きと客観的な根拠が揃えば、家族への正当な報酬として税務上も認められる制度です。ただし、形式を整えるだけでは不十分で、実態や金額の妥当性までしっかり検討しておく必要があります。
上記判決は、「家族だから」「資格があるから」といった理由だけでは通用せず、他者と比べての客観性と裏付け資料が重要であることを示しました。
これから青色事業専従者給与を考えている方、あるいはすでに支給している方も、今一度その金額や記録方法を見直してみてはいかがでしょうか。
めい税理士事務所では一般社団法人やNPO法人など、非営利法人ならではの会計・税務の悩みに、専門的にお応えします。またマネーフォワードを中心に、クラウド会計の導入から日々の運用まで丁寧にサポートいたします。