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定期同額給与とは②〜定期性の基本と落とし穴〜
こんにちは。水道橋のひとり税理士の竹岡悟郎です。今回は定期同額給与について、そもそも定期同額給与の定期とは何かを分かりやすくお伝えしたいと思います。
前回のコラムでは、定期同額給与の「業績悪化改定事由」についてご紹介しました。役員報酬の見直しが可能な場合でも、一定の厳格なルールを満たす必要があるという点が印象に残った方も多いかもしれません。
今回はその前提となる「定期性」について解説します。定期同額給与の“定期”とは一体何を意味するのか? 実はここを正しく理解しておかないと、思わぬところで税務リスクが発生してしまうこともあるのです。
定期同額給与の“定期性”とは?
まず、法人税法では役員給与のうち、原則として次の3つしか損金(法人税計算上の経費)として認められていません。
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 利益連動給与
このうち「定期同額給与」は、次の2つの条件を満たす必要があります。
- 支給時期が「1月以下の一定の期間ごと」であること
- 各支給時期における金額が「同額」であること
一見、単純なように思えますが、「1月以下の一定の期間ごと」とは何か、実務では解釈に迷うケースが多い部分です。
支給時期が「1月以下の一定の期間ごと」とは
定期性の根拠は法人税基本通達にあります。そこでは、支給時期について次のように定義されています。
あらかじめ定められた支給基準に基づき、毎日・毎週・毎月といった月以下の期間を単位として、規則的かつ継続的に反復して支給されるもの
つまり、「月1回きっちりと支給すること」が求められており、年俸制や年2回のボーナス払いといった形式では「定期同額給与」とは認められません。
とくに非常勤役員などに対して年1回または2回の支給にしているケースでは、見た目には定額でも、支給タイミングの間隔が広すぎるため、定期性がないと判断されてしまいます(一定の非同族法人は除きます)。
ただし、支給額が同額でない場合でも、源泉税や社会保険料の控除後の金額が同額になる場合、つまり手取り額が同額になる場合は、定期同額給与として扱われることになります。
同額性の判断と「改定前後の金額が同じ」ケース
定期同額給与は、金額が毎回同じであることが条件です。では、事業年度の途中で役員報酬の金額を見直すことはまったくできないのでしょうか?
実は一部例外があります。具体的には、会計年度開始後3か月以内の範囲であれば、報酬額の改定を行っても定期同額給与として認められる余地があります。
改定の時期と内容に注意
たとえば、3月決算の法人が7月から報酬額を変更する場合、このタイミングでは既に「3か月経過日」を超えているため、原則として定期同額給与の範囲外となり、損金算入が認められません。
ただし、3月決算の法人で毎月の支給日が月末の場合に、例えば6月29日が株主総会で、そこで決議された報酬については、本来であれば6月30日に支給すべきとなります。しかし、それだと給与計算や支給手続き上、30日の支給では間に合わず不可能ではないか、という問題がありました。
これについては、国税庁の「役員報酬に関するQ&A」において、7月末分からの改定として支給することは問題ないとされました。あくまでも3月以内に「改定の決議」という行為が改定と捉えられることになります。
期首からの改定
事業年度の期首からの改定が、問題になるではないかという話がときどき出てくることがあります。本来なら役員報酬は定時社員総会の決議を経て決められものだ、という理屈からです。
しかしながら、条文上は次と通りとなっており、
- その支給時期が1月以下の一定の期間ごとである給与(定期給与)でその事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの(法法34①一)
- 定期給与で、一定の改定がされた場合において、その事業年度開始の日又は給与改定前の最後の支給時期の翌日から給与改定後の最初の支給時期の前日又は当該事業年度終了の日までの間の各支給時期における支給時期における支給時期が同額であるもの(法令69①一)
- 継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月概ね一定であるもの(法令69①ニ)
期首からの改定については①に該当すると考えることになるため、問題はないものとされます。
また、「改定前後の金額が同じであれば問題ないのでは?」という誤解もあります。実際には見かけが同じでも、意図的な利益操作や凹凸給与であるとみなされると否認リスクがあります。
損金不算入となる金額は
役員報酬を「所定の時期以外」に「臨時改定」・「業績悪化改定事由」のいずれも該当しない場合に増額又は減額した場合は、その増額後の上乗せ部分、減額した場合は、減額前の過去の上乗せ部分だった金額が損金不算入とされます。
3月決算の法人については以下の通りになります。増額の場合も減額の場合も12月に改定した前提です。
<増額の場合>

<減額の場合>

経済的利益も“給与”と見なされる場合がある
役員への給与は現金だけとは限りません。たとえば、会社所有の社宅の無償貸与や自家用車の提供、特定の金券なども含め、経済的価値のある供与については「給与」と見なされます。
この場合、たとえ月ごとの提供額が「おおむね一定」であれば、それも定期同額給与の一部と判断されることがあります(法令69①ニ)。
ただし、この場合も「定期性」を満たさなければ損金としては扱えません。
まとめ:見た目のルールだけで判断しない
定期同額給与の“定期性”とは、「毎月払いで金額が同じ」だけでは不十分です。
支給タイミングが1月以内で反復的に行われているか、改定のタイミングが会計開始から3か月以内であるかなど、税務上の明確な基準が存在します。
また、「見かけが同じであっても、利益操作と見なされれば否認される」点は、役員給与の世界ならではの注意点です。
会社にとっては節税のためにも重要なポイントですので、定期同額給与の設計は、必ず税理士など専門家のアドバイスを受けながら進めるようにしましょう。
めい税理士事務所では、一般社団法人やNPO法人など、非営利法人ならではの会計・税務の悩みに、専門的にお応えします。またマネーフォワードを中心に、クラウド会計の導入から日々の運用まで丁寧にサポートいたします。