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【役員報酬についての税務調査対応】事前に知っておきたい対応ポイントとは?
こんにちは。水道橋のひとり税理士竹岡悟郎です。今回は役員報酬が税務調査ではどのようなところをチェックされるのかを簡単にお伝えしたいと思います。
経営者にとって「役員報酬の決定」は、会社の利益と直結する大切なテーマです。
しかし、役員報酬は税務署のチェックが非常に厳しい分野でもあります。知らず知らずのうちに「損金不算入」とされ、多額の追徴課税につながることも少なくありません。
本記事では、役員報酬が税務調査でチェックされる主なポイントや、対応のために知っておくべき実務上の注意点について、わかりやすく解説します。
従業員給与と役員報酬の違いを理解しよう
まず前提として、役員報酬は「経営者としての対価」であり、従業員の給与とは根本的に性質が異なります。
従業員は会社との雇用契約に基づき、労働時間や業務内容に応じた給与を受け取ります。一方、役員は経営判断の責任を担う立場であり、報酬額が業績や経営判断により左右されることがあります。たとえ業務が軽くても、会社が好調なら高額報酬を受けることもあれば、その逆も起こりえます。
このように、役員報酬は経営に関わる報酬として「定型化しにくい」側面があるため、税務上では慎重な取り扱いが求められています。
税務上の役員報酬ルール:損金算入には条件がある
かつては役員賞与(利益処分)が認められていた時代もありましたが、現在は原則として「定期的な役員給与」のみが法人の損金として認められます。平成18年の会社法施行を機に、法人税法も大きく見直され、役員賞与制度は消滅。これ以降、役員報酬が損金になるためには、厳格なルールをクリアする必要があります。
具体的には、以下のような3つの条件を満たす必要があります。
① 不相当に高額でないこと
まずは「報酬額が適正であるか」が問われます。ここでの適正性には2つの観点があります。
- 形式的な適正性(形式基準):定款や株主総会の決議によって、報酬の上限が明確に定められていること。定めがなければ、いくら正当な業務をしていても税務上は損金として認められません。
- 実質的な適正性(実質基準):職務内容や同業他社との比較において、支給額が不相当でないこと。とはいえ、税務署が具体的な標準額を公表しているわけではないため、極端に逸脱していない限り、否認されるケースは少ないです。
② 支給方法が認められた形であること
役員報酬の支給形態は、次のいずれかでなければ損金算入されません。
- 定期同額給与:毎月同じ金額を支給する方法。最も一般的で、中小企業ではこれが基本となります。ただし、一度決めた金額を期中で変更することは原則として認められません。
- 事前確定届出給与:一定の期日までに税務署へ届出を行い、あらかじめ決めた支給額・時期に従って支払う方法。柔軟性はあるものの、変更ができず中小企業ではやや扱いづらい面があります。
- 利益連動給与:上場企業などが採用できる方法ですが、中小企業では基本的に対象外です。
なお、定期同額給与であっても、期中に金額を変更したり、臨時的にボーナスを支給した場合、それらは損金として認められません。たとえば「業績が好調だから」と途中で報酬を増額した場合、その差額分は損金不算入となります。
③ 実質的に役員でない者への支給に注意
「みなし役員」や「使用人兼務役員」といった扱いにも注意が必要です。
- みなし役員:登記されていないが、実質的に経営に関与している者(多くは代表者の親族など)に対して高額な給与を支給していた場合、「役員報酬」とみなされ、損金不算入のリスクがあります。
- 使用人兼務役員:役員でありながら、部長や課長など従業員的な職務も兼務している場合、従業員部分の給与は損金にできることがあります。ただし、業務実態の証明が不可欠で、職務内容の記録や勤務実績が不十分な場合は否認されるおそれがあります。
税務調査でチェックされやすいポイント
役員報酬に関して、税務調査でよく確認されるのは以下の点です。
- 株主総会議事録や定款の記載内容
報酬限度額の設定がなされているか。曖昧な場合は指摘対象になります。 - 支給方法と支給実績の整合性
定期同額であるか、ボーナスなどが紛れていないか、期中変更がないか。 - 業務実態との整合性
実際の役員活動と報酬額が極端に乖離していないかどうか。
税務調査官は、議事録や給与台帳、銀行振込履歴などを確認しながら、こうした点を丁寧に洗い出します。書類の整備が不十分だったり、ルールに対する理解が曖昧なまま報酬設定をしていると、思わぬ指摘を受けることになりかねません。特に勤務実態については調査官も重点的に確認しており、勤務実態がそもそもなければ、損金算入が一切認められないことに繋がります。
調査においては、次のような点がよくチェックされます
- 会社組織図、会社案内
- 席次表や電話内線
- タイムカード(使用人兼務役員の場合)
また勤務実態について複数の関係者、時には従業員までヒアリングを行い、それぞれの関係者の話について矛盾がないか、あればさらに追及するような手法が多く行われています。
役員なので一定の責任を負うため、それに対する報酬を支給するのは当然という考えもありますが、やはりまったくの勤務実態がなく、役務の提供が実態がない場合にまでそれなりの報酬を支給することは理屈としてはなかなか通りにくいとも思われます。勤務実態がほとんどない非常勤役員となった大学生である代表者の子供に対する報酬が月額5万円までしか認められないという裁決もあり、この金額が非常勤役員に対する給与水準とされているところもあります。
やはり最低限、役員としてどういった役割を課すのか、職務執行の内容はどのようなものであるかなどについて、きっちりと考える必要はあると考えます。
税務上のリスクを減らすためにできること
最後に、税務調査リスクを避けるために実務上とっておきたい対策をまとめておきます。
- 定款・株主総会議事録で報酬限度額を明確に定めておく
- 定期同額給与は定時株主総会でしっかり決定し、1年間固定する
- ボーナスや臨時報酬を避ける
- 使用人兼務役員の肩書・業務実態を明確にし、勤務記録を残す
- 親族役員などには「みなし役員」判定を意識した管理を行う
これらを意識しておくだけでも、税務調査時のリスクは大幅に減らすことができます。
おわりに
役員報酬は「会社の自由で決められる」と思われがちですが、税務上は非常にシビアなルールが設けられています。「知らなかった」では済まされないのが税務調査です。
本記事を参考に、制度の基本を理解し、しっかりと書類を整備しておくことで、不意の調査にも落ち着いて対応できるようにしておきましょう。
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